【Be! Talk #01】次世代アーティストが生きやすい世界を作るには ~YouTubeシンガー「なすお☆」所属 ArtPoolRecords代表・山下太朗氏×株式会社SKIYAKI代表・小久保知洋 対談~ vol.1
クリエイターとファンを取り巻く環境がめざましく変化を遂げる現代の「クリエイターエコノミー(※)」を題材に、小久保知洋(株式会社SKIYAKI代表取締役、Bitfanプロダクト責任者)がいま注目するキーパーソンと対談を繰り広げます。
第一回のテーマは「次世代アーティストが生きやすい世界にするには」。
YouTubeチャンネル登録者数35万人を超えるYouTubeシンガー・なすお☆の所属する音楽事務所 「ArtPoolRecords」やレコーディングスタジオ「studio SoCo」を運営している株式会社SoCo Group(ソコグループ)代表取締役社長の山下太朗さんを対談相手にお迎えし、SNS時代のアーティストの生き方について語っていただきました。
(※クリエイターエコノミー:個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏のこと。プラットフォームの整備により、誰もが消費者であるだけではなく、発信者・販売者・生産者としてクリエイターとなれる時代が到来している)
■音楽を仕事として食べていける場所を作るために
(小久保)
オープン型のプラットフォームである「Bitfan」を提供している以上、規模が小さくとも独立して活動されているアーティストさんに向けて色々なヒントを提供していきたいのですが、我々にもまだそこの知見が足りません。
日本ではどうしてもまだ、ファンクラブというと「大手の売れているアーティストしかやってはいけないもの」のような認識が根強い。私からするともっと自信を持ってほしいのですが、最初の配信では「私がファンクラブなんて…」「スタッフがやっと作ってくれました」とちょっと怯えながら話されている方もいて。
この考え方を変えたい。なのでファンクラブを作る時にどこでそんなに躊躇してしまうのか、コンテンツを決めていくのかが知りたいんです。
そんな中でなすお☆さんがBitfanでファンクラブを開設していただく際のLINEオープンチャットからの流れを拝見し、ぜひお話を伺ってみたいなと。実は私もそのオープンチャットに参加させていただいていて、閉じる瞬間からライブ配信に移るまでもずっと見ていたんです。
(山下)
そうだったんですね!全然気付いていませんでした(笑)
(小久保)
とても工夫されているなと思いました。なすお☆さんを筆頭にSNSネイティブというか、ファンと一緒にファンクラブを上手く使いこなされている方はいらっしゃって。例えばですが、最初の配信でファンネームやハッシュタグを一緒に決めるとか、アーティストがライブ配信を始めるとまずファンがみんなでインスタのストーリーに投稿するお決まりの流れを作っているとか。
山下さんの運営するArtPoolRecordsに所属のアーティストは皆さん、SNSなどのプラットフォームを活用されていますよね。本日はその秘訣というか、戦略をぜひ伺いたいなと。
ーーーそれでは山下さん、改めて自己紹介をお願いします!
(山下)
株式会社Soco Group代表取締役社長の山下です。もともとはDJやトラックメイカーとしてアーティスト活動をしていました。とにかく音楽で食べていくのが夢で活動を始めたものの、なにせこの業界はお金の面でアーティストの扱いが悪くて、全部のしわ寄せがアーティストに来ていたんです。
普通は報酬として「5,000円を支払う」と言ったら「5,000円が支払われる」と思いますが、それさえも行われていないことが多くありました。アーティストがちゃんと食べていける、音楽を仕事にできる場所を作りたいと思って会社を立ち上げ、今も頑張っています。
僕は何が得意なのかを考えたら、「ゼロイチ」だったんですよね。ゼロをイチにするのがすごく得意。ずっとやってきたことですし、それは強みでもあると思っています。
ーーー先日のインタビューで、なすお☆さんはご自身で調べて山下さんの事務所に辿り着いたと伺いました。最初はYouTubeもよくわからないままだったと。
(山下)
通常、アーティストの所属事務所の立ち上げというのは既に活動をしていて、ある程度は売れている方に声をかけるところから始まります。しかし弊社は「どんなに歌が下手でも、モチベーションさえ高ければ一緒にやろう」というスタンス。フォロワー数などを見てこちらから声をかけるようなことはしていなくて、今所属しているアーティストはみんな、自らオーディションを受けに来られた方です。
なすお☆も、うちに来たときはライブ集客0人の状態がずっと続いていたんですよ。そこで僕から「YouTubeっていうのが絶対にこれから来るから、やらない?」と持ちかけて。僕がカメラを回して、ギターの上手い知り合いに「ちょっと来てこれ弾いてよ」と頼んで弾いてもらったんです。
(小久保)
それって何年前の話なんですか?
(山下)
7、8年前ですね。なすお☆との実験の中で、YouTubeではある程度の方程式が僕の中にでき上がったので、チャンネル登録者10万人くらいには持っていけるスキームがあります。なので今はとくみくすとかりみーとか、別の子のYouTubeチャンネルもどんどん走らせています。
ーーー山下さんもご自身で色々やられているのがすごいです。
(山下)
もともと僕自身もアーティストだったので、未払いもあって5,000円しか持っていないような状態だったんです。ですが、やる気だけはあったのでなんでも全部やってきました。僕よりも仕事ができる方はたくさんいましたが、みんな辞めてしまいました。
音楽活動をしていた時も、横を一緒に走っている仲間が100人以上いたのに気づいたら僕だけになっていて。自分で走るのを辞めた仲間もいますけど、大人たちがおいしそうな話を持ってきては「〇〇の社長と飲んでるから来ない?」って、曲も作らず飲みに行かされる。別の日も「この集まりあるから一緒に行かない?」また曲は作れない。そんなことをずっと繰り返して消えていってしまった人はたくさんいたと思うんです。
コツコツ何かを積み上げていれば夢が叶ったかもしれないのに、一発で一攫千金を狙っちゃうような話が特に東京に多くて、僕の中では(笑)
(小久保)
(笑)
(山下)
だからその影響がない大阪でフォロワーを増やそうとしています(笑)つまり地方ですよね、地方でやるのって結構面白そうだと思っていて。余計な話のない場所で、もうワンステップ階段を登ろうって頑張れる、そういう素直な原石みたいな子はたくさんいます。普通は「東京に進出しよう!」となるかもしれないんですが、僕は東京以外の県、全てに支社を作ろうかと思っているんです。
(小久保)
事務所同士、横のつながりみたいなものってあるんでしょうか。僕らはたまたま見つけていただいたところからご縁をいただきましたが、山下さんのような考えを持った会社やアーティストとはどうやったら会えるんだろうかと。
(山下)
今のところ僕みたいな人には会ったことがないですね。大阪にいるからかもしれないのですが。
(小久保)
東京の変な誘惑に惑わされずにやれていると(笑)
(山下)
なので仲良くしていただけると(笑)
(小久保)
こちらこそぜひ!
■ビジネスとしてしっかり設計をすれば、アーティストが自分の信じる音楽で食べていくことは十分可能な時代になっている
ーーー山下さんの描く、理想のアーティストの未来図について伺わせてください。
(山下)
とにかくアーティストが食べていける場所を作る、っていうことですよね。ちゃんと仕事として、音楽が職業として認められる場所。
昔、突然警察から電話がかかってきて「さっきおばあちゃんの自転車倒したでしょ、今すぐ警察署まで来なさい」みたいな呼び出しを食らったことがあって。なんで身に覚えのない僕に連絡が来たかって、名刺を渡した人の誰かがおばあちゃんを倒して「今急いでるから、ここに連絡して」って僕の名刺を出したらしく(笑)
その時職業を聞かれて「音楽です」と答えたら、「音楽は職業じゃないから」と返されて。「音楽は職業じゃない」っていうのは普通の認識だと思うんです、食べていくのがすごく難しいイメージですから。
でも、パソコンとインターネットの発達でアーティスト自身ができることは増えました。メジャーなアーティストは後ろで動く人をたくさん抱えていますが、もうそんなに大所帯でいる必要もないんですよね。それならアーティスト一人の収入がもっと多く取れるほうがいいんだから、そういうコンパクトでシンプルな場所が必要だなと。だからまずは新しい時代にあった会社を作らなくちゃいけなかったんですね。
子どもが将来の夢は「音楽で食べていくこと」だと言った時に、お父さん・お母さんが「頑張れ」って言えるような仕組みを作りたいんです。
(小久保)
今回、山下さんにはそこもお聞きしたかったんです。僕らがプラットフォームとして何がしたいかっていうと、ケビン・ケリー(※)が言うところの「1,000 True Fans」。「1,000人の真のファンがいればクリエイターは生きていけるようになる」ということです。
一方で、独立系のアーティストが経済的にどういう状態なのか、我々のツールを使ったところで、全体的な活動の収益にどれくらい寄与できるのかということを理解しきれていないままなのでは、とも思っていて。音楽業界全体的に見ても、CDの売り上げはもちろん、メガヒットやタイアップも減っていますし。
既に「こうすれば独立系のアーティストでも生きていける」形がはっきりとあるのか、もしくはやっぱりまだまだで、「もっとこういうことをやらなきゃだめかもしれない」というところなのか。そこが実は全然理解できていないのではないか。
その部分でより理解を深められれば「これぐらいの収益があればアーティストは活動の継続が可能である」ラインが全体としてイメージできるのかなと。実際にアーティストマネジメントされている方から見て、現実に今がどういう状況なのかをお聞きしたくて。
(※ケビン・ケリー:『Wired』誌の創刊編集長)
(山下)
正直、やる気さえあれば誰でも一般的な初任給くらいは稼げるスキームが弊社にはできたと思っています。一日に8時間、本当に毎日コンスタントに、悪い意味でこだわり過ぎずに頑張れるのであれば。
「ミュージシャンだからYouTubeに音楽をアップしたくない」みたいな意識が昔は結構ありましたが、そういうものがなく、なんでもできる。「音楽で食べていきたい」というところだけにフォーカスして頑張れるのであれば、僕は全員食べていけると思います。やっとそこまでは来れたかなと。
(小久保)
それはやはりYouTubeをメインの収益として捉えているのでしょうか。明確に稼げるプラットフォームではありますが。
(山下)
YouTubeメインの収益でもいけるとは思いますが、このコロナ禍でYouTubeを始める方も多くなっているので…。供給が超過しすぎて、難しくなっています。なので「アーティストの360度ビジネス」とよく言われていますが、ライブやグッズも含めて、一つずつの収益がすごく大事だと思っていて。
なすお☆をはじめ、Bitfanさんでファンクラブをさせてもらっているのも一つの収益です。マネタイズを最大化するために、より高額な料金設定もできることが駆け出しの子には大事なんじゃないか、とふわっとなすお☆のインタビューの時にお伝えしたら、近々アップデートいただけるということで。レスポンスが早くて驚きました。こんなにこまめにアップデートされる日本の音楽ファンクラブのプラットフォームを聞いたことがないので最強なんじゃないかと思っています(笑)
(小久保)
先日のBitfanオーナーイベントでもかなりリクエストが多かったので、これはやるしかないんだなと。やっぱりそうなんですね。「ファンクラブの月会費や投げ銭のような課金機能、ライブ、グッズなどをバランス良く構成していけば初任給ぐらいは稼げる」という形があると。
まさにそこが知りたかったことで。アーティストがちゃんと暮らせているのだろうかとずっと気になっていました。そうであればすごく未来があるんですよね。事務所や本人のアルバイト代から持ち出しで…という状態はサステナブルではないですから、今のお話はすごく重要だなと思いました。本当に食べていけるのかのファクトが、情報として流通していない気がしていて。
(山下)
そう思います。
(小久保)
アーティストとしてしっかり自立できることをもっと知ってもらいたいですね。アーティストが自分の信じる音楽で食べていける世の中になっているんだという事実を発信するのはとても大事な気がしました。
私もここに来るまで、それがやっぱりわかっていなかった。結局メジャーデビューにこぎつけないと何も起きないんじゃないか?みたいな気持ちがあったりもして。でもそうではなくて、ちゃんとメディアやプラットフォームをミックスして、ビジネスを設計すれば生きていける時代なんだというのは、すごく勇気づけられるお話ですね。
(山下)
ただ、ビジネスとしての部分はやはりアーティスト一人でやっていくのは難しいとも思っています。アーティストはお客さんのことが一番大事だから「CDを作ったけど、1,000円は高いかな。500円にしようかな?でも500円でも学生の子には厳しいから、200円にしようかな」で、最終的には「無料で配ろう」となりがちです。そのままブランディングに移行しても失敗してしまう。
世の中には「人思考」の感情重視の人と「城思考」な数字思考の人と、大きく分けてこの二パターンがあると思っています。アーティストはそれで言うと「人思考」なんですよ。いい曲を書くのも、いいMCをするのも、お客さんに愛されるのも「人思考」のアーティスト。けど、逆にブランディングには向いていない。だったら「城思考」な事務所のプロデュースが必要ですよね。ここはビジネスとしてのニーズだと捉えています。
ーーー音楽業界にも新しい時代が来ていると。
(山下)
ビジネスが成熟しきっているジャンルって、インターネットに出遅れていく可能性が高いんです。日本の音楽業界というのは、まさにそうで。様々な利権面でがんじがらめ過ぎて大手が乗り出しにくい分、僕らのような企業にチャンスがある。
会社を立ち上げた9年前、アーティストの夢と言えば「テレビに出たい」「紅白歌合戦に出たい」とほぼ決まっていましたが、僕は絶対にこの時代は終わるなと思っていて。当時はアーティストに「よし、頑張ってテレビに出ような。じゃあまずYouTubeやろうか!」と、半ば騙すように(笑)YouTubeで売れればテレビで使ってもらえるから、と説得していました。
最近事務所に入って来てくれたアーティストにヒアリングしたら、「テレビに出たいです」は、ほぼゼロです。そうやって意識が変わっていくところに、できるだけ早く全力で乗るようにしています。
ただ、プラットフォームは変われど、結局音楽を聴くのは人間です。日本人の好きなアーティスト像や売り出し方、プロデュースの仕方というのはそこまで変わらない。例えば、日本の障子は破れやすくてもそこまで劇的なアップデートはされませんよね。破れやすいから、みんなが丁寧に扱って、大事にしていく文化です。
日本のアーティストは障子のように、ちょっとか弱そうな方がいいんじゃないかと。 ちょっと風が吹いたら倒れそう、だから僕らが支えよう、と思ってもらえるアーティスト。 強くて自立したアーティスト、というのはなかなか日本では売れにくいように思います。
先ほど「閉じ方がよかった」とおっしゃっていただいた、LINEオープンチャットからなすお☆のファンクラブにつなげようっていう企画。あれも、なくなってしまうからこそファンが「なくなってほしくない」って言ってくれるんです。「ずっとなくならないよ、私は一生活動していくよ」ではなく、「やめてしまうかもしれない感」「なくなってしまうかもしれない感」が常にどこかにあるほうが、熱狂的に応援してもらえるんじゃないかと。なのできっちり閉じました。
(小久保)
かなり勉強になるお話ではありますが、とても重要な手の内の話な感じが…明かしてしまって大丈夫でしょうか(笑)
確かに、あの閉じる最後の瞬間の熱量はすごかった。僕も入っていたので、最終日のLINEの通知が物凄いことになっていました。気付いたら通知が四桁を超えていて、何が起きたんだと思ったら、なすお☆さんが閉じる瞬間で(笑)これだけ惜しまれているんだし、やっぱり閉じるのやめました!ってなるのかと思ったら、本当に閉じてしまった。
(山下)
そこは絶対、閉じたほうがいいです。僕はこれに勝手に「祭り感」って名前をつけてるんですけど(笑)祭りって、屋台の400円もするフランクフルトを買っちゃいますよね。まずいと知っているのに、近くのコンビニに100円でおいしいフランクフルトがあるのに、つい祭りの屋台では400円のまずいフランクフルトを買っちゃう。
これが「祭り感」なんです。この「祭り感」があるとグッズもチケットも売れ行きが変わるので、どうやってその気分を出していくかをかなり意識しています。どう企画したら盛り上がるか、「祭り感」が出るかはずっと考えています。
⇒vol.2 (4/25 17時公開)
⇒vol.3 (4/28 17時公開)
■Profile
山下 太朗(株式会社 SoCoGroup 代表取締役社長)
音楽デザイナー。アーティストを中心とした音楽をトータルプロデュース。
インターネットを用いた独自の戦略理論を用い、YouTubeシンガー「なすお☆」や「とくみくす」「りみー」などをトータルプロデュース。ファン0人からファン30万人以上に育て上げた。
「株式会社SoCoGroup」を設立し、「ミュージシャンが音楽で食べていける場所作り」という目標の下、500名以上のアーティストが所属、数々のプロジェクトを推進。
レコーディングスタジオから楽曲制作、イベント制作やグッズ販売などを自社完結されることでマネタイズを最大化し、アーティストへ還元、アーティストが早い段階から食べていける=長く活動出来る=チャンスを多くつかめる場所を日々作っている。
小久保知洋(株式会社SKIYAKI 代表取締役)
SKIYAKI入社時より現在まで、Bitfan グループ(開発部門) を担当。富士写真フイルム株式会社(現、富士フイルムホールディングス株式会社)、光画印刷株式会社、株式会社オン・ザ・エッヂ(株式会社ライブドア)執行役員、NHN JAPAN株式会社(現、LINE株式会社)執行役員、株式会社Cerendip代表取締役、株式会社Diverse取締役を経て、2019年、SKIYAKIに入社。2020年、代表取締役に就任。
■Service
Bitfan(オールインワン型ファンプラットフォーム)
誰でも無料で簡単に、オフィシャルサイトやファンクラブ、グッズ販売、ライブ配信、電子チケット販売など、クリエイター活動に必要な機能をオールインワンでご利用いただけるファンプラットフォームサービスです。「ファンのためにできることを。」をメッセージに掲げ、Bitfanはクリエイターがファンのためにできること・したいことを全て実現します。