【Pick Up Owner #11 前編】TWEEDEES|『ファン同士の二次創作』という新しいコラボの形に挑んだ新作の裏側を語る
小学館「ゲッサン」連載中の『国境のエミーリャ』(作・池田邦彦)を基にTWEEDEESが架空のサウンドトラックを制作。2021年12月10日にリリースされました。同日発売の『国境のエミーリャ』第5巻収録、第25話「美しい歌はいつも悲しい」にはTWEEDEESが本人役として登場するなど、漫画と音楽の新しいコラボレーションの形が実現しました。今回、TWEEDEESにこのコラボレーションに至る経緯や作品に対する思い入れなどの話をお聞きしました。
インタビュー日:2021年12月6日(年、日付の表記は取材当時のものとなります)
インタビュアー:行 達也
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■正しくはファン同士の二次創作と言う感じ
ーーー今回の新作が漫画「国境のエミーリャ」の架空のサウンドトラックということで、元々2人が作者の池田邦彦さんのファンだったってことですね?
清浦:
そうですね。
沖井:
先に読んでて、それでTwitterでなんか…いちファンとして話しかけたりとかしてたら。
清浦:
先生も認知してくださって。
沖井:
で、先生もTWEEDEES聞いて、すごく好きになって、これまでのキャリアまで掘っていってくれて。しかも結構、ディープなところまで(笑)
ーーー最初は先生もTWEEDEESってなんだろう?みたいな感じだったのが...
清浦:
どハマりして下さったというか、ありがたいことに相思相愛となりまして。
ーーーそんなやり取りをきっかけにインスパイアされた曲を作ったということですね?
清浦:
最初はTwitterで絡んだだけなんですよ(笑)なのでTwitter上だけで、お会いしたこともなかったですし、お互いの作品を鑑賞して、池田先生からTWEEDEESを漫画に出してもいいでしょうかっていう連絡をね。
沖井:
突然いただいて。
清浦:
それが2021年の5月位の話だったんですけども。だから、今回のミニアルバム、最新作のEPもそうなんですけど、正しくは『ファン同士の二次創作』と言う感じで。
ーーーすごい、なるほど。僕もこの漫画全然知らなかったんだけど、設定を読んだだけですごく面白そうっていうか。
沖井:
設定はもう、一瞬で「コレは!」って思いますよね。
ーーー「俺がやりたかったことじゃん!」って思いました(笑)。
沖井:
そうですよね(笑)
ーーーいやもう分断するんだったら分断しちゃえばいいじゃんっていつも思っているので…
沖井:
なるほどそっちか!(笑)そういう作品を作りたいっていう話じゃなくて、そういう社会を作りたいってことか(笑)
ーーーそっちです(笑)ってそんなことは良くって、TWEEDEESにしてみればファンとして関わったというか、二次創作として。
沖井:
そうですね、純粋に二次創作として。
■アメリカ的じゃなくてヨーロッパ映画的な感じになるんだろうなっていう
ーーーTWEEDEESとして過去にそういう、サントラ的なものを作ったことってあるんですか?
沖井:
ないですね。CMの音楽とかはありましたけど。それも一種のサントラとかと同じに考えていますが…まあ、オリジナルアルバムの方でカバーをやったりとかだと...
清浦:
やりましたけど、あれはカバーですし。純粋には。
ーーーなるほど。しかも架空のサントラというか。今回の作品って映画になっているわけじゃないですもんね。でもすごく面白い取り組みですね。一曲目とか、沖井さんの趣味丸出しな感じ...モリコーネイズムというか(笑)。
沖井:
本当にそうなんですよ(笑)
ーーーはい来たー!みたいな感じが(笑)
沖井:
はいこういうの!というのを考えつつも、その中でもいろいろあるわけじゃないですか。漫画のコマを見ながら、空気に合うものっていうのを。だからそこは…書いてはボツにして、書いてはボツにして、の繰り返しでした。アレンジとかも含めて。
ーーーインスト曲は特に沖井さんらしさっていうか。音の輪郭への拘りもすごいなって思いました。ピック弾きのベースの音とか(笑)。
沖井:
ですよね(笑)
ーーーこんなんいくらでも書きまっせぇーぐらいの感じなんだろうなと思って聞いていたんですけど(笑)
沖井:
サウンドトラックっていろんなものがあるわけじゃないですか。意識しなかったんだけど、例えば(ヘンリー・)マンシーニとかの方ではなくて(エンニオ・)モリコーネとか(ピエロ・)ウミリアーニみたいなヨーロッパ系の作曲家のテイストになって行ったのは、自分でもやってて面白かったですね。「そっちなんだ」って気づかされたっていうか。アメリカ的じゃなくてヨーロッパ映画的な感じになるんだろうなっていうのが、自分で無意識に思ってたのが。
清浦:
不思議ですよね。エミーリャの世界っていうのはロシアっぽいのに。
ーーー確かに漫画に出てくる登場人物の名前だけ見てるとロシアっぽい感じですよね。
清浦:
主人公のエミーリャが持つ寂しさとか健気さとか、そういうものを抽出すると...
ーーートーンとしてやっぱりヨーロッパな感じになるっていう。
清浦:
そうですね。切なげな方向になる。
沖井:
あと、行さんは多分世代的に近いからわかると思うんですけど。東西冷戦が自分の子供の頃の記憶としてあって、覚えてるじゃないですか。国としてロシア以前にソ連があって、それが怖いものだっていう風に聞かされている子供時代。っていうのがあって、そういうムードの中で、今と違って映画といえば二本立てが普通で、二本目は何か知らないけどフランス映画みたいな時代があったと思うんです。そんな自分の幼少の頃の体験が、無意識にココに入っちゃってるのかなって。子供の頃聞いた音楽も、無意識のうちに出てる可能性があるなって思いましたね。多分僕にとっての東西冷戦なんですよ、この音楽が。
ーーーなるほどね。清浦さんはどうなんでしょうか。サントラみたいなものって。
清浦:
私も普段、マンシーニやモリコーネは好きで聴いてたりはしますけど、今回に関しては、アニメの主題歌だとか、劇伴のドラマの中の曲とか、これまで歌ってきたスキルをTWEEDEESで活かせた感じがすごく新鮮で。回収できた感じです。
ーーー今回の作品だと歌モノもあればスキャットのものもありますね。
清浦:
そうですね。TWEEDEESでメインのフロントマンとして歌う事は仕事だと思ってますけど、このミニアルバムの中で楽器の一部になったりとか、音楽や景色の一部になったりみたいなことができたのがすごく楽しかったです。
■作品に寄り添わなきゃ意味がない。音楽性だけを考えていてもダメ
ーーー今回、漫画の作品がベースになっているということで、普段イチから作っている新曲とかと比べて、ある種の縛りがあるわけじゃないですか。何もテーマが決まってないのとどっちが作りやすいものですか?
清浦:
これは冷蔵庫によく例えているんですけど、じゃがいもと牛乳しかなくても沖井さんはおいしい料理を作りたいし、作れちゃうんですよね。その材料が今回は違った。
ーーーもっといっぱいあったっていうこと?
清浦:
いろいろあったんだと思うんですけど。お題が出されても、その中でよーし腕によりをかけて料理してやろう!っていうところもあったんじゃないかなと私は勝手に思ってます(笑)どうでしょう、そんなことないですか?
ーーーどうですか、沖井先生!(笑)
沖井:
うーん。
清浦:
まっさらなゼロベースも楽しいけど、お題を出されてやるのって。
沖井:
お題があって作るのは好きなんですよ。だからCMの音楽とか作るの好きだし。そうなんですが、どっちが簡単かっていうのは難しいですね。どっちも好きっていう言い方になっちゃうかもです。例えば今回のエミーリャの「二気筒の相棒」はカーチェイスの曲だからこういうメロディーを作って、このアレンジはかっこいいけども、多分エミーリャの世界にはないだろう、だからこっちのアレンジを試してみよう、みたいなのって、要は作品に寄り添わなきゃ意味がない。音楽性だけを考えていてもダメみたいな。それも含めて面白みなんですけど、やってる方としては。
ーーー作品に寄り添っていく事は、ゴールがはっきりしているっていうことですかね?
沖井:
そうですね。エミーリャの作品、絵、その場面、登場人物に寄り添わないと全部NGっていうのが今回の自分の中の線引きでした。
ーーー タイトルにも書いてあるけど、具体的にこのシーンでっていうのがあるワケですよね。
沖井:
ありますね。今回の一曲目とかっていうのはエミーリャが映像化になったら、こんなカメラワークがあってこういう風に始まるだろうなっていうのを想像しながら書いていますね。
清浦:
歌モノの良い曲はオープニングとエンディングだろうとか。
ーーーそこまでちゃんと想像して(笑)
清浦:
そこまで勝手に決めて作ってました(笑)
ーーーでも、逆にこんなのができてしまうと映画作りたくなりますね。
沖井:
それ、できたらやりたいんですけども。さっきも言ったけども、あくまで二次創作っていう範疇で池田先生がTWEEDEES好きだと言ってくださっているので、ちょっと音楽つけていいですかっておずおずと手を差し出したわけですけど、本当にその作業になっちゃうと、途中にアニメの監督さんがいらしたりとか音楽監督さんがいらっしゃったりとかして、多分ここまで僕が好き勝手やらせてもらえないと思うんですよ。
ーーーなるほど。
沖井:
だからやらせてもらうのであれば絶対やりたいですけど、勝手に音楽監督をやらせていただいたっていう楽しみはもうこの規模が限界だろうと。
清浦:
私は自分の声をどの声優さんがやってもらいたいかとか、考えてました。
沖井:
TWEEDEESの回で(笑)
清浦:
そうTWEEDEESが出てくる回で。映像化するんだったらCVは誰だろうって。
沖井:
誰なの(笑)
清浦:
えー!誰かなぁ。
ーーーちょっと待って、TWEEDEESの出番なのに自分たちの声じゃないの(笑)
沖井:
せっかくだから(笑)
ーーーせっかくだから!?そうか…(笑)
清浦:
だって沖井さんほぼ出ずっぱりですよ、どうしますその30分。
沖井:
殴られたりとかしてるからね。
清浦:
それを本人でやったらちょっと、アニメ的にどうなんだろうっていう(笑)
沖井:
で、俺じゃない誰か声優の人に俺がそのイメージじゃないとか(笑)
清浦:
決められるんだよ、好きなように。
ーーーそういう楽しみもあるのね…(笑)
清浦:
そういうことも考えながら作ってました。
沖井:
そういうことならぜひアニメ化してほしいですよね。
清浦:
夢は広がりますよね。主題歌は私たちがやって。
ーーーでも取り組みとしては本当に新しいっていうか。
清浦:
なかなかないですよね。
沖井:
こんな図々しい申し出する人なかなかいないと思うんですよ(笑)勝手に曲をつけていいですかなんて。
■めちゃめちゃかっこよかったです。沖井さんが。漫画の中で(笑)
ーーーもちろん相思相愛っていうのがあるからですよね(笑)でも映像にもなっていないも作品でそこそこのボリュームで架空のサントラとしてあるっていうのは新しいなと思って。
沖井:
昔と違って発表しやすい時代になったじゃないですか。だから作者様の…もしかしたらその、出版社様の許諾を得たらみんなやり始めるかもしれない(笑)
清浦:
でもなかなかできないと思いますよ。だって作品を理解して、そのアーティストを理解してそういう登場する形にしてくれたっていうことなので。その熱量があって初めて成り立つ今回の組み合わせだったので。
ーーーそこが純粋培養っていうか、全然まじりっけがないからお互い好きなものが作れそう。池田先生は池田先生で、2人をどういう風に出したいかっていうのもできるし。
清浦:
めちゃめちゃかっこよかったです。沖井さんが。漫画の中で(笑)
ーーーどうなってるんですかそれ!俺読んでないからまだわからない。
沖井:
大立回りですよもう。
清浦:
密輸して殴られて警察に追われてっていう、凄い大活躍してるんですよ。
ーーーマジで(笑)リクエストとか、したんですか?
沖井:
いや全然!
清浦:
何もしてないんです。
ーーー勝手に描いてくれたと。
沖井:
プロットを送ってくださったんですけど、「拝見しました、すごく面白いです、このままやっちゃってください、私から言う事は何一つないです」って。それはもう「国境のエミーリャ」という作品なので、やっちゃってくださいと。
ーーー バンドの人っていう体じゃないんですか?
沖井:
一応バンドマンという設定です。
ーーーでも密輸したりする…?
沖井:
そうです。
ーーーすごいな(笑)
清浦:
私たちも分断されてるんですよね。
ーーーああ、ここも?
沖井:
そう、この人が千葉にいて、僕は東京にいるんですけど。
清浦:
私の地元が千葉だから、千葉にいて。
沖井:
そう、だから東トウキョウ。僕は西の日本国。で、西トウキョウ。東西トウキョウに…
清浦:
音楽をこっちに持ってくるっていう。
沖井:
カセットテープを密輸するんですよ。
清浦:
だから半分本当に沖井礼二としてね。
沖井:
だから、東トウキョウにビートルズを伝えたのは劇中では僕なんです(笑)ボブディランとかも僕が伝えてるんです。
ーーー60年代?
沖井:
そうです、63年とか。
清浦:
そういうことをやっていて、こっそりライブをやったりしているっていう話。
ーーーそれ聞くだけでちょっと面白そう。
清浦:
ぜひ読んでみて下さい!まだ五巻までしか出ていないので、追いかけやすいと思うので。
ーーーまだまだ続いていく感じなんですね、漫画自体は。
沖井:
ライブのシーンとかも面白くて。我々がライブやってる映像とか配信ライブの様子とかを参考にして描かれていると思うんですけど、池田先生が機材をちゃんと60年代の機材に直してるんですよ。
ーーーへー!
沖井:
キーボードを弾いている人がnord electroとかを弾いたりしてるのちゃんとハモンドにして。マイクもSM58だったりするのを、63年にはないのでそれぞれに当時あったマイクにしていたり。
清浦:
考証の鬼なんですよ、先生。
沖井:
ドラムセットもちゃんと昔にあったやつになってて。
ーーーそういう詳細までちゃんと調べて。先生は元々音楽に詳しかったんですか?
沖井:
趣味として音楽をものすごくよくご存じで。でも元々は鉄道関連のイラストレーターさんで。モーニングで連載していた「カレチ」という作品だったんですけど、僕はそれほどまでに鉄道マニアではなかったんですけども、鉄道マニアの人が「ストーリーも凄いけど、この考証がすごい」と。「確かにこの電車が走ってる時にこの後ろに映る電車っていうのは、このダイヤであるはずなんだよ」みたいな。
ーーーわ、わかんない(笑)気づく人しか気づかないようなところまでちゃんとやってるっていう。
沖井:
そういう考証はもうほんとにすごい人だから。
清浦:
日本を代表するマニアの1人なんでしょうね、その道では。背景がわからなくてもやっぱり面白い、本物の情報が入っているから。そういう面白さが池田先生の作品にはあります。
ーーー電車でそこまでこだわって見せられるから、音楽を表現する時もアンプとかマイクとかっていうディテールに関してもちゃんと考証できているっていう。
清浦:
徹底してますね。気を抜かない。
沖井:
自分が書いている対象に対して、すごく誠実ですよ。適当に書かない人だから。エミーリャが例えば歩いている道とかっていうのも、その作品内では何も書かれなくても、あれはあのあたりの、こういう道なんだよっていうのがちゃんと頭の中にあったり。
ーーーそこをちゃんとTWEEDEESの2人が読み取っているのもすごいですけどね。
沖井:
その誠意っていうのは作品をご一緒させてもらう前というか、エミーリャを知る前から池田先生の作品はそういうのだと知っていたからなんです。ただ、ライブのシーンでそこまでそのイズムがちゃんと生きているとは…。
清浦:
嬉しかったけど、気恥ずかしかったですよね(笑)自分であって自分じゃないけど、TWEEDEESみたいな。
ーーーだとすると、自分たちを丁寧に描いてくれているっていうところも含めて、こっちはこっちでサントラをよりちゃんと作品に寄せたものにっていう意識も上がってくるんじゃないですか?
沖井:
自分たちがどういう風に描かれているかっていうのを知る前にもう、こっちは作曲に着手していたので、そこはなんとも言えないですが、ただまぁ、そういう方だっていうのを知っているから、こっちも適当な事はできないなっていう意識はありました。結局、アレンジ上の理由で無理だったんですけど、本当は国境のエミーリャっていう作品の舞台の1963年以前の楽器は使わないようにして作ろうと思ったんです、最初は。無理でしたけど(笑)そこはやっぱり池田先生には叶わなかったです(笑)でも、それぐらいの事をやらないとなっていう気持ちにさせられる作品でした。映画とか見てて、いやこの時代にそういう音楽はなかったのでしょう、みたいなのとかあるじゃないですか。そういう風になりたくなかったんです。ちゃんと絵に沿った物として。
インタビュー後編はこちら
■TWEEDEES/PROFILE
清浦夏実と沖井礼二によるポップ・グループ。2015年結成。
2015年3月18日、日本コロムビアより1st Album「The Sound Sounds.」 リリース。ミュージックマガジン誌レビューでは10点満点、2015年年間ベストアルバム歌謡・J-POP部門では8位にランクインと高評価を得る。11月3日 1st Single「Winter’s Day」TOWER RECORDよりアナログ盤7インチ、日本コロムビアより配信でリリース。
2016年7月20日、日本コロムビアよりセカンドアルバム「The Second Time Around」リリース。2017年4月よりNHK Eテレ「おじゃる丸」のエンディングテーマを担当しこの楽曲を収録したミニアルバム「à la mode」を同年6月21日リリース。
2018年10月3rd ALBUM「DELICIOUS.」リリース。高い音楽性とファッション性を持ちつつ等身大のフレンドリーなキャラクターで臨むステージングのライブにも定評がある。様々な面でポップス/ロックの「王道」を貫くTWEEDEESは世代を超えて時代の潮目となりつつある。
公式サイト:http://www.tweedees.tokyo/
公式Twitter:https://twitter.com/tweedees_tokyo
清浦夏実Twitter:https://twitter.com/kiyouranatsumi
沖井礼二Twitter:https://twitter.com/okiireiji