【Pick Up Owner #27 前編】UNIDOTS|「今」を軽やかに生きる二人が辿り着いたひとつの着地点
UNIDOTSというユニットに抱く印象はおそらく「ミステリアス」「近寄りがたい」「玄人向け」…そんなところではないだろうか。実際、これまで楽曲やMVのリリースなどはかなり絞られており、その姿を確かめられるのはほとんどライブ会場のみ。「知る人ぞ知る」そんな表現がぴったりだったかもしれない。
それが一転、2022年の彼らはファンコミュニティの開設、自主企画ライブシリーズ「パパイヤ、マンゴー、ストロベリー」の開催、配信シングルの連続リリースなど非常に精力的に活動を展開している。
前後編合わせて一万三千字にも及ぶ超ロングインタビューで「今」のUNIDOTSに迫った。
(このインタビューは2022年10月14日に行われたものです)
UNIDOTS OFFICIAL SITE - Bitfan
■居心地がいい場所を探すのではなく、作り出す
ーーー それではお二人の自己紹介をお願いします。
瑞葵:
UNIDOTSはボーカルの瑞葵と、ベーシストであり作曲家であり、プロデューサーの役割を持った金野倫仁、二人の音楽ユニットです。
瑞葵
ーーー 本日はよろしくお願いします!早速ですが、2022年のUNIDOTSはファンコミュニティの開設、主催ライブシリーズ、三か月連続配信リリースとかなり活動の幅を広げられていますよね。
金野:
UNIDOTSの活動の始まりからずっとそうだったんですけど、二人の性質に共通している部分として「これをやったら、多分こうなる」みたいな、だいたいの結果が見えている事柄を逆算して動くというのが苦手なんです。せっかくやるなら「何か面白いことをやろうとしている人たちがいる」って思われたほうが嬉しい。ちょっとあまのじゃくなんですよ。
それが活動開始当初であれば「ホームページを作らない」「リリースをしない」つまり「ライブメインの活動」ってことになっていた。「バンドを始めるなら音源を作らないと」「まず映像を作らないと」…そういう、なんとなく定石に向かって動くのは自分自身がドキドキしなくて。
ちょうどその頃はサブスクが広まって、音楽も映像も自分で簡単に作れるようになって。色々なことがすごく便利になってきていた瞬間だったけれど、そこにうまく乗り切れない自分たちがいました。
そこから時が経って、今は逆に世の中がそういうことに飽きてきている。今までの既存の考え方とか、レールとして敷かれていた「こうやったら、こうなる」という部分が、だいたい一周して崩壊したのかなって。
だったら「自分たちの基盤を作るためにとにかく動こう」っていうところに、ここに来て立ち返ったような形なんです。
瑞葵:
精神的には始めたての頃とあまり変わっていなくて。今って「ファンコミュニティ」も増えてきていますよね。でもまだ「バンド」の括りだと、乗り切れていない部分がきっとあると思う。
その中で先陣を切るとまではいかないけれど、うちらが先頭に立って「これって結構いいもんだよ」と伝えたいなって。これも「周りと違うことしたい!」みたいな、あまのじゃくなところから来ているのかも…。
金野:
根っこは変わらないんだよね。
瑞葵:
うちらがやることで「UNIDOTSがやっているなら、やってみようか」ってね。そういう、受け皿みたいな動きが作れたら。
金野:
そうだ、それかもしれない。
今年はこれまでやってきた自分たちの選択がやっとひとつの着地点に辿り着いたというか、帰結した気がしているんですよ。それは「場作り」だったんです。自分たちの居心地がいい場所を探すんじゃなくて、作り出して母体になることだった。
自分たちがやっていることを説明して「それ、いいな」「そういうやり方もあるんだ」と思ってもらえるように、知らせて、広めていく。そのほうが二人とも健全になれるなって。誰かと話す時も、音楽をやっている時も、自分たちに自信を持っていられる。「ここに来ていいんだよ」と言えるんです。そういうことをやろうと明確に言語化できたことで、今年の活動につなげられてきたと思います。
ーーー 「健全になれる」ということは…。
金野:
裏を返すと、去年はもう行けるところまで不健康になっていたので(笑)自分たちを信じきれなくて、本当に…メンタル的にも落ちてしまっていたし。
その落ちたところからただ元のレールに乗ろうとするんじゃなくて「自分たちで考えてどうにか動いてみた結果、実は結構いい感じになっている」ことを証明できていれば、今度はそのレールに興味を持った誰かが現れてくれるんですよ。
そういう時のシンパシーがとても心地よくて。人間的なところでちゃんと深くつながれる、共鳴できることが最近は本当に増えてきた。すごく健康的ですよね。
金野倫仁
■「今」のUNIDOTSのモードを知らしめたい
ーーー 三か月連続配信リリースについて伺います。DIGLE MAGAZINEでのインタビューで、瑞葵さんが「リリースがしたい」とおっしゃっていましたが。
瑞葵:
まさにUNIDOTSが健康になった証かなと。ちゃんとクリエイティブなものをみんなに見せて、出していきたい。精神的にも正常を保てるようになった今だからこそやりたいと思えた企画です。あのインタビューの時って、まだ細かくは決めていなかったよね?
金野:
決めていなかったね、全然。けど、どうやったらリリースに進められるかは二人で話し始めてはいて。かなりの最短距離で来れたかな。
ーーー そんな「健康になった証」である新曲を、どう聞いてほしいですか?
瑞葵:
この短い期間の中で駆け抜けた、本当にリアルタイムのものを出している感じ。スケジュール的にも今の自分たちが出したい、作りたいモードを込めるしかないんですよね。なので、そのリアルタイム感を楽しんでほしいなと思っています!
ーーー 録って出し!のような速度ですよね、もう。
瑞葵:
そうなんです。でも、それができるようになったのって今の時代ならではのメリットというか。今まであまりリリースがコンスタントにできなかったというのは、作り手として辛い部分でもあったから。
その分「リアルタイムで作って、すぐ出そう!」ができちゃうのはすごく楽しい。聞いてくれる人にとっても「今まさにUNIDOTSはこんな気持ちなんだ、こんなモードなんだな」っていうのを感じてほしいなって。
金野:
音楽業界にはなんとなく「時間をかけて作ったものを、さらに時間をかけて練り上げてリリースする」という大きなサイクルがあるじゃないですか。でもそういう「みんなが思い描いているような大きなサイクル」を求めている人が、実はもうあんまりいなくなっているんじゃないかなって思うんです。
ミュージシャンとして自分たちが作るもののクオリティとか、どこまでできるかっていう自分自身との勝負は常にある。けれども、音楽というのは本気でやればやるほど、身軽に自分達のモードとかスタンス、生々しさを届けるライブ感…熱量感から遠ざかっちゃうんですよね。
その合間でうちらはずっと喘いでいたというか。悪人がいたというわけではなくて、誰もが真剣に考えれば考えるほどに動きは重くなるし、悩みも増える。「あの頃うまくいっていた理想像」に押しつぶされそうになりながら、とにかく今できることは何か、とひたすらに頑張っちゃっていた。
でも、うちらは今の音楽シーンがすごく好きな二人なんで。今に希望を持っているからこそ、そういう構造から自分たちは早く抜け出していきたいんです。
ーーー 「練り上げる」どころか、録った瞬間すぐにアップロードして世に出すことだって可能ですもんね。
金野:
それを自分たちみたいなミュージシャンがやるのが面白いなって勝手に思ってて。どう見てもそんな感じじゃなさそうなのに(笑)
ーーー めちゃめちゃこだわって、三日三晩スタジオにこもっていそうなイメージです…。
金野:
実際、そういう風になっちゃうんですよね。その分気も遣われてしまうのもすごく感じますし。
さっきのレールの話じゃないですけど、今は多少の嫌なことだとか、降りかかってくる負債みたいなものが万が一あったとしても、自分たちにとって今やる価値があって、なおかつそこについてきてくれる人がいると思えることをやりたい。
なので今回の連続リリースは「こう聞いてほしい」っていうより、自分たちのそういうモードを感じてもらいたいな。今やりたいことの表明みたいな意味合いも強いですね。
■Papaya、Mango、Strawberry
ーーー 主催ライブ「パパイヤ、マンゴー、ストロベリー」についてもぜひ。ファンの方も気になっていると思うのですが、このタイトルには理由があるのですか?今までと明らかに雰囲気が異なりますよね。
金野:
これは…そろそろ初のネタバレを?
瑞葵:
…いいかな? そう、どこにも言ってなくて。
結構色々な触れ方があるテーマなんですけど…「PMS」(※)ってあるじゃないですか。私、精神的にも身体的にも結構参っちゃうんです。それをなんかもう…どうにか可愛らしくごまかせないかと思って、PMSの頭文字から「パパイヤ、マンゴー、ストロベリー」。
(※PMS:月経前症候群のこと)
でも、これはあくまで裏テーマみたいなもので!このタイトルを考えた時の「それいいじゃん!」みたいなノリをそのまま反映させたくて。
ーーー ここにも「リアルタイム性」が出てきている。
瑞葵:
私は普段から歌詞をストックしておく派なんですが、PMSの最悪さについて「パパイヤ、マンゴー、ストロベリー」というタイトルでバーっと書き溜めていて。それをツアータイトルを決めようとしていた時にぽろっと話したら「それいいじゃん!面白い」って反応が返ってきた。その空気感を反映したんです。
じゃあなんでこのことを一番最初に説明しなかったかって、その「辛さ」だけに重心を置きたくはなかったから。別に「PMSについて正しい理解をしてほしい!」とか「女性の辛さをわかってほしい!」とか、そういうのじゃないんですよ。
「PMS」っていう現象をいかにごまかしながらカモフラージュして、うまく生きていくか。色々な回避方法がある中で、音楽もその一つだったらいいよなって。
だからあんまり大っぴらにするつもりもなくて。いつか形にしたいなとは思っていたんですが。むしろこういうインタビューを読んだ人だけが「そうだったんだ!」ってなる、くらいでもいいのかもしれない(笑)
金野:
せっかくならどこかでね。本当に「(笑)」くらいのノリ、というか。その話し合いの場はTOKIO TOKYOというライブハウススタッフの坂本くんも含め、男二人女一人という構図で。その話が出た時に男性である自分たちは「面白いじゃん!」ってまず思えたし、そう言える集まりを今、作れてきている。
瑞葵:
お互いがそこに触れにくさを感じて気を遣うんじゃなくて、ちゃんと認知したうえで歩み寄りたいというか。
この「面白い」ってニュアンス、うまく伝わるかな?「興味深い」なのかな…理解があるうえでの健全な「いいじゃん!」なんですよ。軽やかに、重くとらえすぎない。その姿勢って今、大事だと思うんです。ただ、それが行き過ぎて極端になってしまうと今度は誰かを苦しめてしまう。だから「裏テーマ」。
金野:
裏テーマといえば裏テーマだけれど「パパイヤ、マンゴー、ストロベリー」だけに限らず新曲の空気感も、底には同じ流れがありますよね。みんながそれぞれ興味を持って、自由に話せる場作りという意味でも。
瑞葵:
やっぱりUNIDOTSには二律背反的なものがあるんです。相反しているけど、通じちゃうもの。歌詞の中にもPMSの辛さだけじゃなくて、その鈍痛さえもちょっと俯瞰で見て、笑いながら描きたくて。
金野:
どうせなくならないしね。「どうせ付き合っていかなきゃいけない」という対象に向き合ったら、そこに激しい抵抗をする手段って、実はない。
今の時代もサブスクは儲からないとか嫌いだとか叫ぶ人はいても、結局Spotifyはなくならないんですよ。同じくPMSもなくならない。その中で自分たちが世の中と一番ポジティブな接点を作っていくには、やっぱりアップデートしながら動き続けるしかない。
うちらが音楽を人に伝えるっていう役割をし続けるためには、変化していく時代や人に対していかに一定の距離感を保てるかだよね。
■自分たちのためになる行動を選択するということ
ーーー 本来は10月に予定されていた「マンゴー編」の延期の理由を聞いても?
金野:
大丈夫ですよ!今年…この四か月間ぐらいかな。色々な人に会って、動き回って、制作もするぞ、ライブもするぞって動いているその空気感をリアルタイムで出していこうって思っていたのに、揺り戻しが来てしまったんです。
イベントの一本目「パパイヤ編」をやった後、二人とも体力的に一回ダウンしちゃって。気持ちは前向きなままだったしやりたいこともいっぱいあったのに動けなくなってしまった。
何かが間に合わなかったとか、そういう話では全くなく。もう誰に出てもらおうかとか、セットリストも考えていたし、決まっていることもたくさんあって。だけどやっぱり物理的に一旦距離を置いたほうがいいなと。リリースとかも含めて、ちょっといっぱいいっぱいになっちゃった。
その状態で10月26日に無理にイベントをやろうとしても、絶対にまた疲弊するのが分かりきっていたから。お客さんには迷惑をかけてしまうかもしれないけれど、一度「延期」という形をとって。イベントとしての骨組みをちゃんと作り直して、自分たちが体力的にも気力的にも充実した状態でやるのが本来の健全なライブなんじゃないか、と。
これはもう、自分たちの都合が99%。すごく楽しみにして待ってくださっていた方とか、その日にしか来れなかったっていう方には悲しい思いをさせてしまって…それはとても申し訳なかったです。
それでも「自分たちのためになる行動」をしっかり選択していかないと、どんどん去年までのネガティブな自分たちが出てきてしまいそうで。「なんとかするから一回休もう」とストップをかけてくれる味方がいたことにも安心して、延期とさせていただきました。
ーーー では一旦仕切り直し、もう次の振替日程(11月15日)と最後のストロベリー編は万全ということですね。…瑞葵さんが無言でサムズアップされていますが(笑)
瑞葵:
バッチリです!
ーーー この記事はストロベリー編(12月13日)の少し前に公開となります。ファイナル公演を観に来てくださる方に向け、見どころがあればお願いします!
瑞葵:
SHIBUYA PLEASURE PLEASUREという会場なのですが、UNIDOTSとしては初めてのホール公演なんです!プラネタリウムみたいなホールが好きなので、そういうところでライブができるのが個人的にすごく楽しみ。
金野:
それもある意味リアルタイムみたいなところがあるよね。11月にマンゴー編をやって、そこから約一ヶ月くらいだし。今でさえも毎日流動的だから…「連続リリースはどんな曲を出しているのかな」「ライブの最後はこういう曲かな」とか、昨日考えていたことと今日考えていることがすでにもう別の方向に向かっていたりして。
あえて誰かに意見を聞いてみたりもするし、日に日に変化していく。マンゴー編が終わったくらいで、自分たちもようやくゼロイチでストロベリー編を始められるような気がしています。
とはいえ最後は「ホールでワンマンをやる」という形だけは決まっていました。
このUNIDOTSというユニットには「みんなそう思うだろうな」という予定調和みたいな感覚がない。見る人に何かを強制するものをいかに排除できるか、だと思います。
開かれていて、本当の意味で自由。迷惑さえかけなければ OK。そのムード作りというか、場作りを考えた時に、それは「ライブハウス」ではないし、何らかの政治性を伴っているような場所でもないだろうなと。
だから「ホール」なんですよね。元々は映画館だったあの会場で、瑞葵という存在をずっと目で追える形をとりたくて。「ライブ」というより「公演」「コンサート」と呼ぶほうがいいのかな。
自分たち自身もそういう形式が好きで。受け入れられている、排除されないムードを感じて安心できるんです。あの空気感を少しでも伝えたくて、場所だけは先にまず決めていました。
何をしても許されるというわけではないけれど…そこで自分が気持ちよくなったりとか、いいなと思えるポジティブな気持ちとかを、素直に、疑わずに、考えすぎずにいられる場所というか、空気。それを味わってほしいですね。
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■Profile/UNIDOTS
瑞葵(Vo./Lyrics/songwriter/design)
金野倫仁(songwriter/producer/Ba./Gt.)を中心に活動する音楽プロジェクト。
2016年結成。
CD音源等のリリースを一切行わない中、2017年・2018年にかけて渋谷eggmanでの全ての自主ライブをソールドアウトさせる。
2019年1st EP「複雑因子- complex factor -」、2020年2nd EP「鮮明 、あるいは 不鮮明 - clear/blur -」リリース。
2019年-2021年には4度に渡るワンマンツアーを行う。
また、2016年「ワールドオブファイナルファンタジー」の主題歌「イノセント²」、2017年「ワールドオブファイナルファンタジーメリメロ」の主題歌「イノセント³」に瑞葵が作詞、歌唱、金野がベーシストとして参加。
2018年にはスクウェアエニックスの漫画VRコンテンツ「結婚指輪物語VR」の主題歌に「Girl & Boy」を提供。
瑞葵はmizukiとしてSawanoHiroyuki[nZk]にVoとして参加、金野は初音ミク「マジカルミライ」・「MIKU EXPO」にベーシストとして参加するなど、個人としても多岐に渡った活動を行なっている。
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