【前編】UNIDOTSが歩む、新たな道。自分たちの世界を変え続ける自由なクリエイティヴ|DIGLE MAGAZINE
<目次>
▶︎ アンビバレントなところを描く
DIGLE MAGAZINEとオールインワン型ファンプラットフォーム『Bitfan』が送る、“アーティスト活動”にフォーカスしたインタビュー企画。アーティスト選曲のプレイリストと共に、これまでの道のりやファンとの関係について掘り下げます。今回はUNIDOTSが登場。
(本記事は、DIGLE MAGAZINEに掲載された記事の転載です。)
結成から6年余りの時間が経過したが、本当の始まりはこれからだろう。瑞葵(Vo)と金野(B)によるユニット・UNIDOTSは、昨年所属していた事務所から独立。DIY体制で新たな一歩を踏み出した。理由はもちろん、これまで以上に自由なクリエイティヴを楽しむため、そして、開かれたコミュニケーションを獲得するためである。
Bitfanを介したファンサイトを立ち上げ、早速音声コンテンツをスタート。今後もフレキシブルなアイデアが飛び交う場所になるのではないだろうか。これまでのリスナーには彼らの素顔を覗く場所として、これから出会うリスナーには、より多角的に二人の音楽を楽しむ場所として、様々な機能を果たしていくはずだ。
清らかさと仄暗さを併せ持ったボーカル、情熱的でありながらどこか冷ややかさを感じる楽曲、密室的な空気があるかと思えばパッと開かれるメロディ、UNIDOTSの音楽にはそうしたアンビバレントな要素がいくつも散りばめてある。
取材の前半では、瑞葵とコンノのふたりにルーツとなるプレイリストを作ってもらい、それらの楽曲を紐解きながら創作の根幹に迫ってみた。後半には独立独歩の道を選んだふたりのビジョンについて語ってもらっている。これから徐々に加速していくであろうUNIDOTSの活動について、是非注目してほしい。
■アンビバレントなところを描く
ーー自身が選曲した曲で、最初に出会った曲はなんですか。
金野:
僕はMy Little Loverの「Survival」かな。落っこちてたMDを拾って聴いてみたら、当時流行ってた曲がパンパンに入っていて。そのひとつがこの曲でした。
瑞葵:
面白いねそれ。
金野:
「Survival」ってMy Little Loverの中では後期のもので、いわゆる90年代にメガヒットを連発していた時期よりもかなり後に発表されて、暗い歌詞に明るいビートが乗っている変わった曲なんですよね。凄く僕の心に残ってて、改めて考えてみたらこれもルーツかなって思いました。
ーーどういう影響を受けていると思いますか?
金野:
どの曲も共通したテーマでセレクトしているんですけど、たとえばNew Orderの「The Perfect Kiss」も、ビートの明るさやダンサブルな感じとは裏腹に、曲自体はめちゃくちゃ暗いというか、凄く内省的ですよね。僕はそのバランス感に惹かれていて、自分が創作する時にもそういうものを作りたいと思っています。
ーー陰があるものに惹かれている?
金野:
僕らの写真をずっと撮ってくれている西田さん(西田幸司)に、「UNIDOTSって陰影礼賛なんだよね」って言われたことがあるんです。「光があって、そこにできる影にフィーチャーする。そして、そここそを礼賛するような考え方を持った人だね」と言われた時、自分が好きだったものってそれだったのかと腑に落ちたんです。めちゃくちゃ泣きながらダンスしているとか、めちゃくちゃ笑顔で絶望的なことを歌っているとか、そういうことが1曲の中で語られている時に僕は凄く納得しちゃいます。
ーーアンビバレンスなものを表現した曲、ということですね。
金野:
そう、まさに。
瑞葵:
UNIDOTSという名前もそうだよね。
金野:
単数と複数という、逆の言葉をくっつけてUNIDOTSなんです。あと、今日着ているものも青と赤で分かれているしね(笑)。
瑞葵:
ほんとだ(笑)。天邪鬼なんですよね。UNIDOTSのグッズのテーマカラーも水色とピンクにしていて、カラーバランスを見た時に真逆なものになるようにしています。
ーー瑞葵さんはこの中で一番古い記憶がある曲はどれですか。
瑞葵:
たぶん椎名林檎さんの「同じ夜」です。国内の音楽限定で、歌や歌詞に影響を受けた楽曲を選んでいったんですけど、「同じ夜」は中学生の危うい状態で聴くのに一番影響を与えられたものだったと思います。
ーー危うい状態?
瑞葵:
女性の満たされなさ、渇きみたいなところをこの人はずっと歌ってきたんじゃないかなって思うんです。それってクラスにいる全員には響かないかもしれないけど、5人くらいには刺さってしょうがないみたいな、そういう音楽かなと思います。特に私の立ち位置っていうのは、クラスの頂点でもなく、クラスの目立たない感じでもなく、中間の宙ぶらりんみたいなところだったので。人にはなかなか理解されない気持ちとか、「なんだよ」って思う部分を椎名林檎さんが歌っていて、それが私に刺さりました。
ーー「誰かの願いが叶うころ」も、恐らくリアルタイムで聴いた楽曲ですよね。
瑞葵:
この曲が入っている『ULTRA BLUE』が凄く好きです。「BLUE」という曲も大好きで、あの作品の頃の実験的な感じに惹かれています。あと、私は地元が福島なんですけど、車で出かける時に親がかけていたので、私にとって街へ出る時の音楽なんですよね。
ーー原風景みたいな曲だと。
瑞葵:
『ULTRA BLUE』って打ち込みの音がメインになっているので、ちょっと未来感があるじゃないですか。ずっといわきの田舎にいたので、都会的な車道を走る夜の風景と、あのアルバムが凄くリンクしました。もちろん、そうは言っても全然都会じゃないんです。なので自分の中にある、本当はあるはずのない都会のイメージというか。田舎の人が抱える想像の都会の空気を感じていて、それであの作品が好きなんですよね。
ーー金野さんの5曲には、テクノやニューウェイブ趣味が炸裂してるように思います。
瑞葵:
全体的に未来感があるよね。金野さんらしい。
ーーそういうところにアンテナを張っている人なんですね?
金野:
完全にそうですね(笑)。最近改めて『ふたり』という90年代初頭の映画を見たんですけど、その映画の音楽を久石譲さんが担当しているんです。そこで流れる「草の想い」という曲は、80年代の日本でも多かったシンセポップのようなアレンジを施した曲で、久石譲と聞いてみんなが想像するであろう神秘性と、無機質なリズムが同居している曲になっていて。これが僕が好きな音楽の大元にあるものなんだって思ったんです。
ーーなるほど。
金野:
上の兄弟や親の影響で、幼稚園の頃からそういう音楽に触れていたと思うんです。なので10代後半に音楽を始めてから好きになった、YMOやNew Orderの手前には、ゲーム音楽や久石譲さんの「草の想い」があったんだなって思います。
ーー度々New Orderの名前が出てきていますが、ElectronicもNew Orderのバーナード・サムナー(Bernard Sumner)がやっているバンドですね。
金野:
「Getting Away With It」では、バーナード・サムナーが持ち合わせてるポップネスが爆発している。あれってJoy Division原理主義みたいな人からしたら、ある種一番ダサい時代だとも思うんですよね。僕が好きなNew Orderの『Technique』も、ちょっとディスコっぽかったり、New OrderやJoy Divisionが好きな人にとってはダサい時期だけど、その時期が一番ポップで泣ける曲が多くて僕は好きです。
ーーUNIDOTSの「夢見るレディオ」には、そうした影響が色濃く表れているように思います。
金野:
まさにあの曲のサビで弾いているベースは、Peter Hookのオマージュです。音だけでなく、踏んでいるエフェクターも同じものにしていますし、歪ませてコーラスを踏み、ハーモニクスを出しているところにも影響が出ていますね。
ーー「デンキ」はどういった思い入れがある曲ですか?
金野:
これはなんて言ったらいいんだろうな…なんか、奇妙ですよね。小川美潮さんは得体の知れない感情表現をされていて、何かそういう感覚に惹かれているんだと思います。同じくらいの年代には早瀬優香子という人がいて、彼女の「セシルはセシル」という曲や、ジューシィ・フルーツにも同じようなものを感じます。
ーーストレンジな音楽が好きなんですね。
金野:
そう、ストレンジな感じ。早瀬優香子もめちゃくちゃ変。だけどその変な歌がニューウェイブ的で、ヘナヘナしてるけど凄く刺さってくる。奔放ですし、あれが堪らないですね。
ーー瑞葵さんが選ばれた矢野顕子の「ひとつだけ」も、多くのミュージシャンがカバーしている名曲ですね。
瑞葵:
超名曲。THE BOOMの宮沢和史さんと歌っている「それだけでうれしい」も入れたかったんですけど、サブスクになかったので「ひとつだけ」を選びました。この曲は歌詞に凄く感動しています。矢野さんの書く歌詞って、とにかくシンプルなんです。それでいてUNIDOTSのテーマでもある、“アンビバレントなところを描く”ということをやっている人だと思っていて、そこが本当に凄いと思います。
ーーなるほど。
瑞葵:
子供に語りかけるような歌詞だと思ったら、厳しい大人みたいな言葉に言い換えたり、誰でもわかる言葉で急に刺さる言葉を入れてくれる。そういう作詞において特に影響を受けた1曲です。過激なことを歌っているわけではないのに、誰にでも伝わるシンプルな言葉で過激にもなれるんだって、矢野さんの音楽を聴いているとそう思います。
ーー原田真二さんの「タイム・トラベル」はどうですか?
瑞葵:
22、3歳ぐらいの時に、スピッツの草野さんが歌っている「タイム・トラベル」を金野さんから教えてもらって。めっちゃいい曲だと思って原曲を聴いてみたところ、原田さんの声を凄く好きになりました。ハスキーだけどちょっと甘くて、少年みたいな声で歌っている。そしてものすごく音楽自体に造詣が深くて、ソウルやR&Bにルーツがあるんですよね。日本人だけどブラックな音楽を体現できる人だと知って、どんどん好きになっていきました。一時この人を携帯の待ち受けにしていたぐらい好きで、もし男性だったらこんな歌が歌いたいという存在です。
ーーでは、逆に心惹かれる女性の曲は?
瑞葵:
そうだなあ…自分が惹かれるものは、ただ弱い女を歌っている曲ではなくて、どこか自立したものが多い印象があります。あるいは、どうしようもないけど生きていくしかないよねっていう諦めだったり、コンプレックスを消化して、それでも「自分はこうしていきたい」っていうような、何かを受け入れている歌詞に惹かれるかな。
ーーそうした言葉の強さが今の創作にも結びついていると思います。既にリリースされている曲では、「僕らの終着点」の《悲しみ 喜びすべて 夜に溶けてしまえ》という歌が印象的です。
瑞葵:
私が「僕」という言葉を使う曲は、ストーカーの歌詞が多いんですよね。「僕らの終着点」もそうした視点で書いていて、好きな相手を追いかけたり、ストーカーが追い詰めていくようになっちゃうんですよ。
ーー何故?
瑞葵:
…わからない。
金野:
(笑)。
瑞葵:
でも、ストーカーの歌詞なんだけど、凄く前向きな歌詞に見せかけるのが好きですね。そういうものを遊びで書いている気がします。
ーー毒を忍ばせている感覚ですか?
瑞葵:
内包させるのが好きなんですよ。金野さんが言っていた、泣きながら踊っているような曲というのもそうですけど、明るく爽やかなんだけど、凄くドロドロしているというような二律背反的なものが好きです。たとえばP丸様。の「ちきゅう大爆発」という曲をピノキオピーさんが作詞作曲されているんですけど、その歌詞が超ひねくれているんですよね。「可愛い赤ちゃんハイハイ 数十年後に犯罪」とか、韻を踏みながら真逆のことを言っていく。そういうところにどうしようもない愛しさを感じちゃいますし、それが性癖なのかなと思います。