【後編】堀込泰行が紡ぎ出す未来の音楽。「満たされたことがない」と語る、その先にあるもの|DIGLE MAGAZINE
<目次>
▶︎ オフィシャルファンクラブ「Cheers!」はこんな場所
▶︎ これからの10年は仕切り直し。より本質的で、少数でも刺さる音楽を作りたい
DIGLE MAGAZINEとオールインワン型ファンメディア『Bitfan』が送る、“アーティスト活動”にフォーカスしたインタビュー企画。アーティスト選曲のプレイリストと共に、これまでの道のりやファンとの関係について掘り下げます。今回はシンガーソングライター・堀込泰行が登場。
(本記事は、DIGLE MAGAZINEに掲載された記事の転載です。)
■オフィシャルファンクラブ「Cheers!」はこんな場所
ーところで先日、オフィシャルファンクラブ「Cheers!」の開設が発表されました。事務所を移籍してから2年半、ファンクラブがなかったわけですが、何か理由があったんでしょうか?
いや、特に理由はなくて。僕自身もその辺はぼんやりしているというか、曲を書いてライブができればじゅうぶんみたいなところがあるんですよね。とりあえず今はみんなSNSをやっているから僕もInstagramやってみるか、という感じでやってきましたけど、「このあたりでファンクラブの立ち上げはどうでしょうか?」とスタッフから提案されて。
たしかに僕のInstagramは、ファンが望んでいるものを載せているわけではないんですよね。普段の生活で撮った写真の中で気に入ったものを載せているだけ。音楽以外の自分の表現、あるいは表現未満だけれども自分の別の一面を載せることが多かったんです。演奏している動画を載せようと思うと、それなりのレベルのものじゃなきゃダメだろうと考えてしまって、そうするとどんどん腰が重くなっちゃって。
でもファンの人はインスタライブやコミュニケーションの場、あるいは単純に僕が写っている写真なんかを求めてくれているんじゃないか、と感じるようになってきていたので、このタイミングでファンクラブができるのは良いことだと思いました。
ーすると、これから開設されるファンクラブでは、堀込さんの演奏や堀込さんとのコミュニケーションが楽しめるわけですか?
その予定です。あとは、リリース情報以外のトピックですよね。ブログのようなちょっとした文章など、いろんなものを提供していけたらと考えています。スタッフがたくさんアイデアを出してくれるんです。
ーたとえばどういったものですか?
ファン同士が話せるチャットのような場所を作って、時には僕自身もそこに登場するとか。あとは、僕の知人に「堀込泰行ってどういう人ですか?」みたいなアンケートを取って、それを紹介していくとか。そうして人数が増えていくと、ひとつの辞典みたいになるとか。
ーそれは面白いですね。ちなみに、スタッフさんにとっての堀込泰行さんって、どういう人ですか?
(スタッフ)泰行さんの魅力は「作られた良さ」ではなく「素の感じ」だと思うんです。アイドル的なかわいさというわけではなく、動物を愛でるような感覚というか。
ーそれは、ペットのような? スタッフさんにとっての堀込さんは「かわいい」なんですか?
(スタッフ)泰行さんは、人によっていろんな捉え方がある音楽を作っていると思うんです。爽やかに聴こえたり、寂しさがあるように聴こえたり。それでいてそれぞれの人のムードにフィットする。ある程度の音楽性を維持しながら捉え方に遊びがある感じというか。
ーなるほど。
(スタッフ)アイドルの場合は「こういうふうに見てほしい」という意思があるわけですよね。見てほしい角度がある。でも動物にはそういうものはなくて、見ているこっちが勝手に愛でているというか、愛着を持つポイントも人それぞれで。犬のように懐いてくれるから愛おしいと感じる人も、猫のように懐かないのが良いと感じる人もいる。中には「死んだ時に悲しいから動物は飼わない」と言う人もいて、勝手に死んだ先まで想像してしまう。それくらいドラマチックな振れ幅のある音楽をやっているのが泰行さんで、動物に対してこっちが勝手に愛着を持つことに似た、そういう魅力のある人だと思うんです。
ー……すごい、その観点だけで記事が書けそうです。
(スタッフ)でも泰行さんの事をよく知らない人からはフワッと見えている部分があると思うので、そこをうまく解体して言語化していけたらと思っています。ファンクラブがなかったこの2年半、泰行さんがどんなことを考えていたか、その記録があまり残っていないので、そうしたことを形に残したくてファンクラブを立ち上げることにしました。
ーと、スタッフさんはおっしゃっていますが、ご本人はいかがですか?
そこまで考えてやってくれるのはありがたいですよね。僕ひとりだとそういうアイデアもなかなか浮かばないですし。期待に応えられるようにがんばりたいです。
■これからの10年は仕切り直し。より本質的で、少数でも刺さる音楽を作りたい
ー今年の5月で50歳になりますよね。インディーズデビューしたのが25歳ですから、人生の半分をアーティストとして生きてきたことになります。好きなことで生きていく秘訣みたいなものはあるのでしょうか?
それは……わからないですね……。僕の場合、いろいろな時期がありました。すごく忙しい時期や、制作の現場に緊張感があった時期。キリンジをやめる時も、そこに至るまでにもたくさん悩んだ時期がありました。キリンジ時代にしたって、良い時も沈んだ時も、そこから盛り返した時もありました。
でもひとつ言えるのは、僕は小さいハコからだんだん大きいライブハウスになってホールやアリーナを埋めて、みたいなきれいなストーリーを描いてここまで来ているわけではないということです。良い曲ができて満足感を得たことはあるけれど、すごく売れて満足した経験が一度もないんです。そこまで考えてやってくれるのはありがたいですよね。僕ひとりだとそういうアイデアもなかなか浮かばないですし。期待に応えられるようにがんばりたいです。
ーまだ売れていない、満たされていない、という感覚があるんですか?
すごく成功しているミュージシャンの人たちが満たされているかどうかはわからないけど、自分に関してはその感覚がないので、だから常にベストなものを出していかないといけない気持ちがあるんだと思います。そうしないと沈んでしまうから。
そうこうしているうちに25年経ったなという感覚です。これで安泰だと感じたことはなかったし、常に頑張らないと現状維持できない状態に置かれてきたことが、続いている理由だと思います。
ー結構、驚きの答えな気がします……。堀込さんは、ある面では神格化されている部分があって、思い入れの強いファンも多いはずです。だからこそ、過去の作品について聞かれることも多いでしょうし、それこそ2021年はBSフジで『アワー・フェイバリット・ソング 私が「エイリアンズ」を愛する理由』が放送され、馬の骨時代の楽曲「燃え殻」が映画のEDテーマになるなど、過去曲にも注目が集まりました。そうやって昔の話をされることは、率直に、嫌ですか?
どうだろう……どの曲も熱心に作ったものなので基本的には嫌ではないけれど、時と場合によるというか。過去の話に終始してしまうとちょっと困ることはあるかもしれない。やっぱり今の自分があるので、そこにつながる話になるなら嬉しいです。
ー最後に、今後5年、10年の展望について教えてください。
バンドを脱退してからはいろんな形を試してきました。セルフプロデュースをしたり、若手の新しいサウンドクリエイターとコラボしたり、蔦谷好位置さんにプロデュースをお願いしてみたり、親しい音楽仲間と共同プロデュースでバンドみたいな気持ちで作ってみたり。全部とても良い経験だったけれど、今後は一度、仕切り直すという感覚ですね。
そもそも自分はソロになってどういうサウンドをやりたかったのか、どういう姿勢で音楽を表現していきたいのか、そういうことを見つめ直したいんです。その結果、極端な話、売れなくても少数の人に刺さればいい。逆に言えば、少数の人には刺さる音楽を作りたい。
この先10年、20年と音楽をやっていくのであれば、いったんここで、本当に自分のやりたかったことと向き合いたい。だから冒頭で話したような「今の時代との接点を持たせる」ことも、もしかしたらやらないかもしれない。自分にしかできないものを作ることを第一目標に、次のアルバムを作りたいと考えています。だからこれからの作品は、より自分の本質に近い作品になっていくと思います。
(文: 山田宗太朗 写:Yosuke Demukai 編:Mao Ohya)