【前編】堀込泰行が紡ぎ出す未来の音楽。「満たされたことがない」と語る、その先にあるもの|DIGLE MAGAZINE
<目次>
▶︎ 「今らしい音」とは「今、飽和している音」でもある
▶︎ 「よくできた昔の音楽」にならないように、ていねいにメロディと向かい合う
▶︎ ドラマ『glee/グリー』を見て、燃えた
DIGLE MAGAZINEとオールインワン型ファンメディア『Bitfan』が送る、“アーティスト活動”にフォーカスしたインタビュー企画。アーティスト選曲のプレイリストと共に、これまでの道のりやファンとの関係について掘り下げます。今回はシンガーソングライター・堀込泰行が登場。
(本記事は、DIGLE MAGAZINEに掲載された記事の転載です。)
2022年、堀込泰行はソロになって10年目を迎える。インディーズ時代から数えると25年、実に人生の半分をアーティストとして過ごしてきたことになる。そんな彼に「未来を想像する音楽」というテーマでプレイリストを作ってもらった。自身の楽曲も含め、Bill EvansやHirth Martinez、Eric Katzなど、さりげない温かみを感じさせる楽曲が中心に並ぶ。このプレイリストを軸に、自身のこれまでとこれからについて語ってもらった。
近年はテレビで特番が組まれたり、CMや映画で過去曲が使用されたりするなど、過去の活動も再評価されるようになってきたが、本人は「満たされたことも、これで安泰だと感じたこともない。きれいなストーリーを描いてここまで来たわけじゃなかった」と語る。数々の名曲を残してなお満たされない、そのモチベーションの源泉は何なのか。この先どこへ向かおうとしているのか。インタビュー後半では、3/1(火)18:00に公開されるオフィシャルファンクラブ「Cheers!」についての詳細も。堀込泰行の知られざる一面を感じてほしい。
■「今らしい音」とは「今、飽和している音」でもある
ー堀込さんには「未来を想像する音楽」というテーマで楽曲を選んでいただきました。選曲にやや苦戦したと聞きましたが、なぜでしょうか?
僕は普段、最先端の音楽よりもオールタイムフェイバリットな音楽を聴くことが多いんです。新しいアーティストも、特別最先端のサウンドに固執していないような面白いものを聴くことが多いので、サウンド面で未来を感じさせる曲を選ぶのが難しかったんです。
歌詞の面でも、コロナ以降、いろんなミュージシャンが今の心境を歌にしているけれど、どうしても洋楽を聴くことの方が多くて、日本のミュージシャンのメッセージまでは追えていませんでした。だから少し考え方を変えて、これまでに自分が励まされた曲やエネルギーをもらった曲、という観点で選びました。
ー近年の活動を振り返ると、『GOOD VIBRATIONS』で若手アーティストとコラボしたり、昨年リリースされた『FRUITFUL』でも今っぽいサウンドを取り入れたりしていたので、日本の若手アーティストの曲が1曲くらい入ってくるのかな、と予想していました。
コラボした若手のミュージシャンたちはすごく面白い人たちばかりで、才能も溢れていて、彼らこそ新しいサウンドを作っていく人たちだと思うけれど、そうすると、僕とコラボした曲を選びたくなっちゃうと思って(笑)。
D.A.N.とコラボした「EYE」とかもすごく気に入っているんです。あの曲は確かに斬新だったし、新しい音楽という意味で選びたい気持ちもありました。でもそうすると、あそこまで新しい音楽を想像させるものを連続してセレクトしないといけないし、それはなかなか難しいなと。
それに、単純に今のサウンドだけ選ぶのも違う気がしたんです。「今らしい音」というのは、一方では「今、飽和している音」でもあるから。
■「よくできた昔の音楽」にならないように、ていねいにメロディと向かい合う
ー作曲する際も、最先端のものをインプットするより自分のルーツにある音楽を深堀りすることが多いですか?
基本的には昔から曲の作り方は変わっていないんです。ギターをポロポロやりながらメロディとコードが一緒に出てきて、後から歌詞を乗せていく。そういう古いスタイルなので、フレーズから作るような今の音楽の作り方とは違いますね。ただ、楽器と歌だけで美しくなることは心がけています。
そういうなかで、どう今の音楽市場に出すのか。サブスクで色々聴いて新しい音も取り入れつつ、懐かしみがありながらも今と接点を持たせる要素を入れるようにはしています。たとえば、ドラムが打ち込みだったり、微かにシンセが鳴っていたり、モジュラーシンセで作ったようなあまり楽器に聴こえない音を入れたり。あるいはミックスのトレンドを取り入れたり。そういった要素を加えて今との接点を設けないと、「よくできた昔の音楽」になってしまうから。
ー基本的にはずっとギターの弾き語りで作っていくんですね。
そうですね。その後、PC上で音楽制作ソフトを使って、ギターで作ったものをピアノで置き換えてデモを作るんです。ギターよりもピアノの方が和声の動きがよくわかるので、ギターだと気付かなかった発見があって、コード進行が洗練されていく。「ここのいちばん高い音を何小節かキープできるな」とか「ここにもうひとつ音を加えたらジャズっぽくなって面白いかも」とか。
いきなり打ち込みで始めることは、少しの例外を除いてほぼないです。ただ、今後は少し作り方を変えてもいいかもな、と考えるようになりました。ひとつ面白いリフができたら、そのリフで遊びながら広げていくとか。
ーなぜそう考えるようになったんですか?
「少しの例外」と言いましたけど、「最初に思いついたベースラインにストリングスのフレーズを加えて、この2つの音に対してコードをつけるとしたら何だろう?」というやり方で作った曲が、それまで自分の作ってきた曲のテイストと違うものになったんですよね。それからは、何がなんでもギターと歌だけで成立するものという制限を設けるのではなく、「なんか面白いな」というフレーズを繰り返してみたり、もうちょっと音を楽しむ感覚で作ってみてもいいかなと思ったんです。これまでは、「音を紡ぎ出す」という感覚で曲を作っていたので。
ー「紡ぎ出す」とは言い換えるとしたらどんな感覚ですか? 「自分の中から絞り出す」ような?
「絞り出す」だと無いものをギュッと出すような感じだけど、「紡ぎ出す」は、丁寧にメロディに向かい合う感覚ですかね。ひとつメロディが出たら「次はどっちに行きたがっているんだろう?」「どうしたらもっと美しくなるだろう?」みたいなことを、ああじゃないこうじゃないと1日中ギターでポロポロやっている感じです。
でも、無理に1曲に仕上げようとは思わず、思い付かない時はすぐにやめるようにしています。だから「絞り出す」ことはむしろしないようにしていますね。
■ドラマ『glee/グリー』を見て、燃えた
ー今回選んでいただいた1曲目が「Don’t Stop Believin’」で、しかもJourneyではなくドラマ『glee/グリー』のバージョンだったんですが、これ、間違いじゃないですよね?
間違いじゃないです(笑)。 Journeyのバージョンも中学生ぐらいの時に出会って好きなんですけど、『glee/グリー』はドラマが面白いと思って見ていて。
『glee/グリー』のシーズン1は、ミュージカルスターを夢見ていた人が挫折して高校の先生になり、合唱部の顧問になるという始まり方です。その合唱部は、いわゆるアメリカのスクールカーストの最下層。イケてない奴らの集まりなんだけど、彼らが第1話でこのJourneyの「Don’t Stop Believin’ 」を歌い、その姿に感動して先生もスイッチが入るんです。そのシーンがすごく印象的で。シンプルなメッセージだけど、励まされて、胸打たれたんです。
ー燃えたと。
一言で言うとそうですね(笑)。それで、元々知っていたJourneyの曲の良さも再確認できたところがあります。Journeyのバージョンを選んでも良かったけれど、プレイリストとしては『glee/グリー』の方がその後につなげやすいイメージがあったので。通しで聴いた時に気持ち良くなるかなと。
ーなるほど。全部で10曲選んでいただきましたが、他の曲で「特にコレ」という曲をひとつあげるとしたらどれでしょう?
3曲目に選んだHirth Martinezの「Altogether Alone」ですね。この曲はこんな内容の歌詞です。ひとり暮らしのうだつのあがらない男のところに、ある時、UFOが現れる。男は通報しようと電話をかけるがつながらず、その瞬間、頭の中にこんな声が響いてくる。「これから毎日、お前の前に姿を現してやるからな。だから退屈しないで済むぞ」。
UFOが出てくるのも面白いし、「これからお前の前に毎日出てやるから退屈しないぞ」という、寂しい男の励まし方というか、ちょっと心が温まる感じ、すごくユーモラスで、軽みを持ちながらも孤独に対してさりげなく温かみを与えてくれるところが、すごく好きなんですよね。
ーとても堀込さんらしさを感じる選曲です。寂しさがありつつも、重く落ちていくのではなく、軽やかさがあって外に開いている感じ。個性のある選曲で、堀込さんの作風にもつながっているように感じました。ご自身の曲は3曲だけ入っていますね。
図々しく入れさせてもらいました(笑)。「5月のシンフォニー」はコロナ禍真っ只中の時に作った曲で。「不要不急の外出を控えて」と常套句のように繰り返されていた時にどんな曲を書こうかと考えた結果、現実逃避できる曲を作りたいと思ったんです。この曲を聴いている間はどこか違う世界に行けるような体験をしてもらえると良いなと思って。ただただ綺麗な風景が浮かんで美しい音楽を目指して作りましたね。
歌詞は桃源郷をイメージしていて。でも、たとえば《涙の川をまたいで》という箇所には、時代の閉塞感や、自分を含めてみんなの気分が沈んでいる感じも表れているし、《通り抜けたトンネルに 初めて見たような 懐かしい世界》は、コロナの状況が明けた時のイメージを込めました。トンネルを抜けて、かつての僕たちの日常をもう一度取り戻せると良いな、という気持ちですよね。
⇒後編へ続く
(文: 山田宗太朗 写:Yosuke Demukai 編:Mao Ohya)