【前編】金廣真悟がコロナ禍で迎えた新たなスタートと挑戦|DIGLE MAGAZINE

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2021/07/30 18:00

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DIGLE MAGAZINEとオールインワン型ファンメディア『Bitfan』が送る、“アーティスト活動”にフォーカスしたインタビュー企画。アーティスト選曲のプレイリストと共に、これまでの道のりやファンとの関係について掘り下げます。

(本記事は、DIGLE MAGAZINEに掲載された記事の転載です。)


今回は金廣真悟が登場。前編をお届けします。





今年1月に活動休止した  グッドモーニングアメリカ  のフロントマン・  金廣真悟  に、「今年よく聴いている曲」というテーマでプレイリストを作ってもらった。


グドモのドラマーだった  ペギ  、そして  Saji  の  ヤマザキヨシミツ  と結成した3ピースバンド  Asuralbert II  (アシュラルバート2世)や、弾き語りを中心とするソロ名義の活動など、グドモ休止以降も精力的に音楽を世に放つ金廣だが、自身の心機一転スタートと新型コロナウィルスの世界的蔓延が不幸にも同時期に起こってしまったこともあって、その活動はそう簡単ではないようだ。


しかしながら、金廣の姿に悲観はうかがえない。活動は止まることなく続き、彼が生み出す新たな音楽は、以前とは違った純度の高い輝きを放っている。素晴らしいバンドミュージックが多く並んだプレイリストを紐解きながら、グドモ休止以降の金廣の現在地を探った。




■ 「大人のロック」をやりたくなった


-今日は「今年よく聴いている曲」でプレイリストを作っていただきましたが、選曲されているのはバンド音楽が多い印象がありました。


意識していたわけでもないし、そもそも、ここ半年間くらい音楽をあまり聴いていなかったんですよ。なので、たまたまではあるんですけど、それでもこれは「バンドマンのプレイリスト」という感じがしますよね。


やっぱり、僕はロックバンドが大好きなんだなと思います。1990年代の頃にブリットポップが大好きになって、高校の同級生に  TOTALFAT  がいたので、自然と自分もUSメロコアを聴くようになり、そこからさらに掘り下げてエモやハードコアを聴くようになって……。そうやってずっとバンドを聴いてきた。それが、今でも続いているんだと思う。


-サウンド的に見ると、特にメロディアスなバンドたちが並んでいるなとも思いました。


そうかもしれない。例えば、  The Rubinoos  の「I Wanna Be Your Boyfriend」は1970年代の曲ですけど、飲み友達の力さん(  THE BAWDIES  が所属する〈SEEZ RECORDS〉の社長、吉田力)にお勧めされて、そこから一気にハマりました。メロディやコーラスワークが、自分の好みにドンピシャで。



-このプレイリストに並んでいる「メロディアスなバンドサウンド」というのは、今、金廣さんがやられているAsuralbert IIのサウンド感に通じるものがあるなと思って。


振り返ると、グドモは、すごくポップな要素が強いロックだったと思うんです。「よりわかりやすく、より伝わりやすく」って考えながら曲やサウンドを作っていたから、掴みやすいし、「答え」をそのまま渡しているような音楽だった。


だからこそ、Asuralbert IIでは、真逆……といったら極端ですけど、より「自分らしい」ことをやってみたいと思ったんです。僕ももう37歳でいい歳だし、「大人のロック」をやりたくなったというか。落ち着いていて、サウンドにはアンビ感があって、3ピースならではのシンプルさがあって。そして、漢気があって、初期衝動を感じられるようなものがいいなと。


-「初期衝動」といっても、グドモを始めたときとも違うものだろうし、もっと遡ると、for better, for worseを始めた頃とも違うものですよね、きっと。


そうですね。もう何周も回ったうえでの初期衝動です。訳がわからないけど、なにかを発散したいっていう、あの若さゆえの初期衝動ではない。


でも、「変わろう」とか「新しいことをやろう」と思わないと、「自分」というものが衰退していってしまう気がするんですよね。悲しいかな、人間は、放っておくと悪い方向に流れていってしまうものだと思う。性悪説っていうことではないんだけど、頑張って上に登ろうとし続けない限り、下に落ちていってしまう、というか。だから、明日、よりよい自分になるためには、変わる努力はしていかないといけない。その考えのもとに、ソロやAsuralbert IIで動き出しているつもりなので、そういう意味では、ここにも確かに初期衝動があると思います。


-あくまでも「今」の金廣さんの初期衝動として、ここにはリアルなものがあると。


そう。サウンド的な部分でも、Asuralbert IIでは、グドモとは違って変拍子を入れていたりするけど、別にわかりにくいことを表現したいわけではないんですよね。あくまでも開放感のあるものを表現したいとは思っていて。シンプルにギターを掻き鳴らして、ベースを搔き鳴らして、ドラムを打ち鳴らす。それを見て、「バンドってカッコいいな」と思ってもらえればいいなと思う。


-「解放感」というのは、Asuralbert IIの音源を聴いているとすごく感じます。


お、嬉しい。


-特に「エビバデ」は素晴らしく開放的な1曲ですよね。前提には苦しみや疲弊があるんだけど、最終的には、それを突破してくような開放感に繫がっていく。



「エビバデ」は、今の自分の最大限の強がりですね(笑)。立ち向かっていくような感覚で書けた曲だなと思います。アンセムになるような曲だと思う。


-「エビバデ」の歌詞には、グドモの「空ばかり見ていた」という曲名が引用されていますよね。


そうですね、「空ばかり見ていた」はもう10年前くらいに作った曲なので、「そりゃあ、変わるよな」と思うんですけど。まぁ、あれから10年経って、新しいバンドを組んでまたスタートしていく……そのときに素直に思ったことを書いた曲になったと思います。




■ 今、理想とする音


-今回、プレイリストの多くを占めているのは、時代的に見ても、恐らく金廣さんが思春期に聴いていたバンドたちなのではないかと思うのですが。


そうですね。3ピースバンドをやるのが初めてなので、改めて、「3ピースバンドってどういうものなのか?」というのを研究していたんです。  Green Day  もそうですけど、  Stereophonics  とか、  Feeder  とか、僕が中2くらいの頃に聴いていたバンドたちです。一番音楽に飢えていた時期に出会ったバンドたちだと思います。




-例えば、StereophonicsやFeederは90年代半ば以降のイギリスに出てきたバンドですけど、ブリットポップやグランジという大きな波のあとに出てきたバンドたち、という感じがします。大きな物語の、「その後」の時代をサバイブしたバンドたち、というか。


うん、だからこそ、純粋なグランジやブリットポップとはちょっと違って、いろんな要素が混ざってくる。僕はStereophonicsが一番好きなバンドなんですけど、この曲が入っているセカンドアルバム(『Performance & Cocktails』)を聴いて、「  Oasis  や  Blur  よりこっちのほうが好きだ!」と思ったんです。今でも覚えていますけど、府中の新星堂の視聴機でずっと聴いていましたね(笑)。1曲目から最後まで視聴機で聴いたのは初めてですよ。


この頃のStereophonicsは3ピースだったし、Feederも3ピースだし。自分でも3ピースバンドをやることになって、自分がカッコいいと思う3ピースのサウンドを探したら、ここに行きつく。やっぱり、僕は90年代のサウンドが好きなんでしょうね。


-Asuralbert IIとは別に、金廣さんは3月にソロ名義の作品『はじまりのうた』をリリースされましたが、ソロに関してはどのようなイメージを持って活動されているんですか?



ソロは、最初は掃き溜めみたいなものだったんですよ(笑)。本当に、なんでもありっていう感じで、当初は電子音を入れたり、キーボードを使ったり、声にエフェクトをかけたりもしていたんですけど、このコロナで、東北の地震のことを思い出して。


そもそも弾き語りをやり始めたのは、東北の地震のときに、下北沢Cave-Beでチャリティーライブを企画したのがきっかけだったんです。「あのときはアンプラグドだったよなぁ」と思い出して。


なので、3月に出した作品ではエフェクターを使っている曲もありますけど、最近はもう完全に弾き語りっていうスタイルに立ち戻っています。突き詰めれば、1音1音がいい音であれば、すべてがいい音になると思うし、感動させられると思うので。


-ソロの楽曲では、特に金廣さんの歌の凄みを感じます。バンドとはまた違った「歌」の在りようですよね。


僕は、声量は大きい方だし、幅も広いし、音域も上から下まで結構出るので、そのすべてを使って表現していけば面白いことができるんじゃないかと思って。特に、今の僕は「身ひとつ」みたいなものなので、自分の最低限の持ち物だけでどれだけの表現ができるだろう? って考えるんですよ。そのために、弾き語りのギターは1音半下げにしたり、クラシックギターを使っているんですけど、それに合う一番いいマイクを探したりして。


グドモがポップな言葉遊びで、Asuralbert IIが大人で男臭い感じだとしたら、ソロは、より個人的なもの、私的なものなんですよね。ソロは、よりフォーク的であるべき、民謡的であるべきというか。


-「民謡的」というのは、ソロの音源を聴いて強く感じる部分ですね。


例えば、アメリカンクラシック的なものって、日本人的な感覚からするとお洒落で古臭い音楽っていう感じかもしれないけど、僕は、真実がちゃんとある音楽だと思っているので。自分も、そういう音楽をやりたいなと思うんです。


例えば、今回のプレイリストでは  Elvis Costello  (エルヴィス・コステロ)を選んでいますけど、彼もパンクから始まって、ジャズやシャンソンに向かっていったりした。そういうところも、いいなと思うんです。


-プレイリストのなかで、コステロは2曲選ばれているんですよね。「Welcome to the Working Week」は、1stアルバム『My Aim is True』の曲で、「Don’t Look Now」は、2018年のElvis Costello & The Imposters名義のアルバムからですね。


「Don’t Look Now」は素晴らしい曲だと思います。  Burt Bacharach  (バート・バカラック)と一緒に作った曲で。この曲が入っているアルバムは、コステロが癌から復帰しての1作目なんですけど、聴いたときはすごく感動しちゃいましたね。アルバムのタイトルは『Look Now』で、曲のタイトルが「Don’t Look Now」なんです。「今の私を見ないで」っていう。とてつもなく好きな曲です。



あと「Welcome to the Working Week」は、The Rubinoosからの流れで、ちょうど同じくらいの時代の音楽なので聴いていました。「やっぱり、コステロ好きだなぁ」と思います。僕がAsuralbert IIでジャズマスターを使いたかったのは、コステロがジャズマスを使っているからなんですよ。



-そうだったんですね。


あと、2006年くらいの映像で、コステロのライブにゲストで  Death Cab For Cutie  やGreen Dayの  Billie Joe Armstrong  (ビリー・ジョー・アームストロング)が出ていたときがあって、そのときのアームストロングがカッコよすぎた。コステロと一緒にGreen Dayの「Wake Me Up When September Ends」をやったんですけど、映像を見ていて鳥肌が立ってしまって。何も特別なことはしていないのに、シンプルなままで、ここまで説得力があるのはかっこいいなと思いましたね。




(『DIGLE MAGAZINE』編集部 文:天野史彬/写:後藤倫人/編:久野麻衣)


後編に続く(2021年8月6日 配信) →


Shingo Kanehiro 『With POPCORN THEATER』 – Bitfan →

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