【Pick Up Owner #40】日本少年合唱協会|消えゆく文化とともに歩む

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2024/04/26 15:00

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日本ではあまり聞き慣れない「少年合唱団」という存在。“ただのファン”としてその歌声に惚れ込んだことをきっかけとし、今では海外の少年合唱団を招聘・サポートを行う「一般社団法人 日本少年合唱協会」代表理事として活動をしている多田文也氏に、少年合唱との出会いや活動理念、さらには国内外における少年合唱団の今後の展望などを訊いた。

 

日本少年合唱ファンクラブ - Bitfan

 

 

 

 

■世界の少年合唱団の普及と発展を目指して

ーーー それではまず、「一般社団法人 日本少年合唱協会」について、活動内容とその設立目的を教えてください。

 

2023年に設立した一般社団法人で、 日本だけではなく世界の少年合唱団の普及と発展を目的としています。子どもたちが音楽を通じて豊かな人間性を育み、社会に貢献していくことを目指しています。

 

主な活動内容としては、海外から少年合唱団を招聘して、国際交流事業や全国各地でのコンサートの企画です。そして、そのコンサートのチケットを学校などを通して配布し、子どもたちを無料で招待するということもしています。

 

「日本少年合唱協会」という名前ですが、日本の合唱協会を束ねている、代表しているというわけではありません。団体とは名乗っているものの、ほぼ私ひとりで活動している状態です。

 

2023年はまず、イギリスの少年合唱団であるカーディナル ヴォーン スコラ カントラム(The Cardinal Vaughan Schola Cantorum、通称「スコラ」)を8月に招聘することができました。その後、2024年に入ってからはオーストラリア国立少年合唱団のコンサートの企画・主催を担当しています。

 

ーーー 日本国内ではなかなかあまり馴染みがない「少年合唱団」という存在ですが、多田さんが少年合唱に出会い、こうして社団法人を設立してまで関わっていこうと思った経緯を教えてください。

 

一番最初のきっかけは2014年でした。それまでは少年合唱団というものには全く興味もなかったのですが、ある日偶然ウィーン少年合唱団が地元・札幌で公演をするということを知りまして。

 

何の気なしに「どれぐらい席って埋まっているのかな」とプレイガイドを開いてみたら、ちょうどキャンセルが出たタイミングだったんでしょうか、満員なのに奇跡的に真ん中の前から3列目という席がひとつだけ空いていたんです。

 

これは、行けということかなと(笑)運命的なものを感じてしまったのでそのままチケットを購入しました。とはいえ、そこからYouTubeでコンサート動画を探しはじめて、「意外と馴染みがある、知っている曲も歌うんだ」と驚いたぐらいです。

 

実際にコンサートホールで歌声を聴いてみたら、あまりにも素晴らしくて。そこからどんどんハマっていきました。気づいたら国内の少年合唱団のコンサートにも頻繁に行くようになっていて、すっかりファンになっていましたね。

 

ーーー ですがまだ、その時点ではあくまでファンだったと。そもそも、もともとイベンターやコーディネーターなどの経験があったのでしょうか。

 

いえ、全くの素人でした。普通の、ただの少年合唱ファンです。

特に隠しているわけでもないのですが、2021年にtoto(スポーツ振興くじ)の一等が当たったんです。あれがなければ今、こうしてはいなかったと思います。

 

ーーー まさかの!

 

もうほぼ残っていませんけどね。スコラを呼ぶことに使ってしまいましたし、来日自体は渡航費用や会場費などでかなり赤字でしたから。

 

資金面というより、活動を始める大きなきっかけとなったのは事実です。

そして、やるのなら覚悟を決め、人生をかけてやりたかったので、その証として法人化もしました。登記なども全部自分で行っています。

 

日本の少年合唱の世界というのは本当に狭くて、全国に10団体もいません。なので、それらを統括するほどの規模もなくて。私も自分が日本の少年合唱を束ねていこうとは思っていません。

 

おそらく今は日本国内よりも海外で有名かもしれないですね。本当かはわからないですが、海外の大物少年合唱団の方も知ってくださっているとか…。

 

ーーー 少年合唱の本場、というのはやはりヨーロッパなのでしょうか。

 

そうですね。一番数が多いのはイギリスとドイツです。

ウィーン少年合唱団はオーストリアなのでドイツの隣ですよね。イギリス、ドイツを中心にして、そこから放射状に遠ざかるにつれて少なくなっていきます。

 

なので、次に規模が大きいのはイギリスとドイツの間のフランスです。そのあたりを中心にして、スペインではだんだん少なくなり、さらにその先のポルトガルでは全くと言っていいほどに見かけません。イタリアなどもほぼいませんね。

 

ーーー オペラなどの芸術文化とも、キリスト教の伝播ともまた異なると。ということは、先日サポートされていたオーストラリアの合唱団は地理的にはかなり遠い部類ですね。少し話がずれてしまいますが、インタビュー動画など拝見していて、合唱団メンバーの方の年齢層が結構幅広くて驚きました。

 

オーストラリア国立少年合唱団は来日自体はすでに決まっていて、学校や大使館などのイベントの合間にコンサートができないかの相談を受けての参加でした。今回の来日メンバーはユース世代のみだったので、本当はもっと小さい子もいるんです。

 

おそらく10歳から、22歳くらいまでは在籍していると思いますよ。全体では150人くらいいるそうです。やはり教会の日曜学校で讃美歌に触れる機会や経験がある、というのは日本の子どもたちとの違いですね。

 

 

■一生に一度かもしれない

ーーー 最初の活動となったスコラの招聘はどうやって実現したのでしょうか。

 

少年合唱団やボーイソプラノの熱心なファンである方がスコラと繋いでくださったんです。招聘することには何も特別な資格はいらないですし、資金もありましたし、何よりもこんなことができるのは一生に一度かもしれないと思い、招聘することに決めました。

 

ツアーは札幌、名古屋、東京と回りましたが、費用の関係もあり…今回呼べたのは先生と合唱団の4名のみでした。ですが、まだ何の実績もなかった自分を信じて来日してくれた、というのがとても嬉しかったです。

 

滞在のサポートからコンサートの主催まで全て自分でこなしたのは大変でしたが、ツアーが終わった今でもインタビューをさせていただいたり、サインをいただいたりと交流は続いていて。ありがたいことです。

 

 

ーーー そういったイベンター的な業務は全くの未経験であったと先ほどのお話にもありましたが…。

 

本当に、多分30年分ぐらいの人生を濃縮したんじゃないかってぐらいに大変でした(笑)

準備から何から、全部ひとりでしなきゃいけないですし。

 

コンサートには報酬が発生するので、ちゃんと興行ビザとかを用意しておかないといけなくて、それも一から調べて用意して、とやっていたら、突然来日メンバーの変更もあったりして。

 

スコラの来日で心残りなのは、メンバーの中にマラカイ・バヨーくんというブリテンズ・ゴッド・タレントの決勝にまで進出したようなスターがいたのに、活かしきれなかったことですね…。

 

彼はイギリスではかなりの有名人で、発売したCDはクラシック部門で1位、YouTubeの動画再生回数は数千万とうスーパースター。うちでも動画をアップしましたが、すでに30万回は再生されています。

 

 

彼の歌は本当に素晴らしく、舞台袖で聴いていただけでも感動ものでした。その彼の存在をアピールしきれなかったのは本当に後悔しています。

 

 

 

■少年合唱という文化の難しさ

ーーー しかし、時代的要因もあってこの先「少年合唱団」という形態も難しいのではないでしょうか。

 

少なくとも、日本の少年合唱団については消えていく文化だと思います。

それも時代ならばしょうがないのかなと。ですが、その前になんとか良さを広めたいんです。

 

ーーー ちなみに日本での公演では、どのぐらいの集客が見込めるのですか。

 

少ないですよ。集客は本当に苦労しますね…。まず知ってもらえていないので。

そもそも、これは私の主観ですが、日本国内の合唱団側はあまりそういった広報や集客に積極的ではない印象があります。

 

日本の少年合唱の歴史は、1950年ごろにウィーン少年合唱団が初めて来日したときにちょっとしたブームが起こって、各地に少年合唱団が生まれたところから始まります。しかしそれ以降、あまり大きな盛り上がりもなく、縮小の一途をたどり続けているのが現状です。少年合唱がいずれ消えてしまうのは仕方のないことかもしれません。

 

そのウィーン少年合唱団は今年もジャパンツアーを開催しますが、大体2ヶ月くらいかけて全国を回ります。全国ツアーをして、最後は数日間連続しての東京オペラシティ公演です。そんなにも公演数は多いのに、行けばどの会場もほぼ満員に近くって。

 

その動員力を考えると、少年合唱を好きな方の下地自体は十分あるはず。とにかくもっと知ってもらって、少年合唱はウィーンだけじゃないよ、と広めていきたいんです。

 

ーーー 今後、少年合唱団という文化の普及、継承におけるキーポイントはなんだとお考えでしょうか。

 

やはり実際に生で聴いて、その楽しさを体感してもらうことです。

自分自身が初めて生で彼らの歌声を聴いたときに「こんなに小さい子どもたちから、こんなにも美しい声が出るのか」とびっくりしたんですよね。その声の美しさ、素晴らしさに驚かされて、気づいたらもうファンになっていたので。

 

だから自分の役割は、少しでも海外から良質の合唱団を招聘して、子ども、大人問わずにファンを増やしていくことだと思っています。

 

日本って、合唱団の数自体は多いんですよ。

学生の部活における「合唱部」という存在は「合唱の普及」には非常に大きな力があるのですが、あれは「合唱コンクールなどに出て自分が歌う」という方向性なので、「合唱を聴いて楽しむ」とは少し異なるんですよね。

 

もちろんそれはそれでいいのですが、「合唱を聴く」ほうにベクトルを向けたくて。

日本の少年合唱団は海外にツアーをしに行く、スポンサーをつける、などの外向きの活動に不慣れというか、外へのアピールという点をあまり重視しない雰囲気があります。

 

逆に、海外の合唱団は航空会社がスポンサーについてツアーをサポートしつつ、企業のCMに起用する、なんてことも。

 

今はYouTubeやTikTokなどがあるので、もっと本気で世界に知名度を広めていこうとすればまだまだやれることもあると思うんです。

 

ーーー まず「知ってもらう」のは本当に大変ですね。

 

今、この団体に必要なのは広報や営業の方なんですよね。資金面の問題もあり、なかなか進められていないのですが…。そもそも自分自身も上に立つタイプではないことはわかっているんです。でも、何しろ誰もやる人がいない。 自分がやるしかなくてやっている、という状態です。

 

ーーー 何か、大きなフックになるようなイベントがあるとまた変わるような気がしますが。

 

まだお話はできないのですが、今年、来年と準備中の企画もたくさんあります。

海外の合唱団と日本の合唱団をつなぐような試みも計画しているので、ここが勝負どころだなと感じています。

 

もう世界的にも縮小していく文化なのは避けられません。あのウィーン少年合唱団でさえも資金が潤沢かというとそうとも言えないみたいで…。「政府が助けてくれるだろう」みたいな声まであって、いくら素晴らしい文化でも、そんな考え方ではあまり未来も明るくないですよね。

 

消えてしまう前に少しでも少年合唱の良さを伝えられるよう、国内の少年合唱団の間でも協力しあえる仲間を作っていきたいと思っています。

 

 

 

■世界の少年合唱団の普及と発展を目指して

ーーー Bitfanでは昨年の4月からファンクラブ「日本少年合唱ファンクラブ」を開設していただきました。なぜファンクラブを始めようと思いましたか。

 

これはもう、わずかでもいいので費用の捻出というのが一番でした。

 

ーーー Bitfanを選んだ理由は。

 

開設する前はいくつか他サービスと比較したのですが、動画が会員限定公開で投稿できることと、手数料も安く、支払いサイクルも他サイトと比較して早かったことが決め手でした。

 

ーーー 1,200円と360円の2つのプランを設定いただいています。この価格設定、内容についてはどうやって決められましたか。

 

主に動画やインタビュー音声、来日時の写真などを見られるお手軽なコースが360円のプランです。1,200円のほうは…月に1,200円というのは決して安くはないと思いますし、ファンクラブ限定グッズとしてサインや写真集などもプレゼントするなど、特典を充実させているつもりです。

 

はっきり言ってまだファンクラブの規模は小さいと思いますが、ご支援いただいている方にはせめていい席のチケットをご提供するなど、どうにか価値の還元ができないか試行錯誤しています。

 

ーーー 1,200円プランの会員さんもかなりいらっしゃいますよね。

 

ありがたい限りです。

少年合唱団はファンの世界も狭いので、どこの会場に行っても知り合いがいたりするぐらいの規模なんです。ファンクラブでチケットを申し込まれたら、絶対に会場でお会いするじゃないですか?お見かけするたびに、あの方が入ってくださったんだなと実感できて、嬉しくなってしまいますね。

 

それでも最近は会員数が伸び悩んでいて。やはり立ち上げた当時に入っていただいた方が一番多いんです。とはいえ、「スコラが来日します」と大々的に発表した去年の4月時点では実績もまだなかったので、この団体は大丈夫なのか不安に思われた方も多かったようです。そんなタイミングでも入っていただいた方々には大変感謝しています。

 

スコラとオーストラリア国立少年合唱団のおかげでサポート実績もできましたし、少年合唱ファンの方々にも今後はもう少し安心してご利用いただけるかなと思います。

 

ーーー 今後、ファンクラブ会員の方向けにやってみたいことはありますか。

 

コンサート以外の交流の部分を充実させていきたいですね。

 

以前、オーストラリア国立少年合唱団の来日時にコンサートのリハーサル見学会をしてみたのですが、それが好評で。もっと合唱団の子どもたちとも気軽に交流しあえるようなイベントをやりたいです。

 

ーーー では最後に、少年合唱団という文化に馴染みがない方向けに、魅力を教えてください。

 

子どもたちの歌声というものは、本当に幸福感を感じさせてくれます。

 

さらに私の団体ではファンの方と合唱団メンバーとの触れ合い、交流も大事にしたいと考えており、必ずサイン会や写真会などもお願いしています。

 

コンサートや交流イベントなどを通して、誰もが笑顔になれること。それが一番の魅力だと思います。

 

今はYouTubeでも手軽に歌声に触れられる時代ですし、意外と知っている曲も歌われているはず。触れてみるきっかけというか、ハードルは相当低くなっていると思うので、どんなものなのかまず聴いてみて、コンサートに足を運んでみてほしいですね。

 

 

日本少年合唱ファンクラブ - Bitfan

 

 

■Profile/一般社団法人 日本少年合唱協会

2023年1月設立。
日本のみならず世界の少年合唱団の普及・発展を促進することを目的とし、少年合唱団、及びボーイソプラノソリストの招聘、国際交流事業、各種コンサートの企画を行っている。

 

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