『喫茶えめらるど』とは?Emeraldがファンコミュニティに向けて届ける今のムード|DIGLE MAGAZINE
<目次>
▶︎ メンバーみんなで昔聴いてた音楽を聴き直す
▶︎ お客さんとミュージシャンはいろんな心の繋がり方がある
▶︎ バンド全体の一体感や関係性が、Emeraldの神秘的な部分
DIGLE MAGAZINEとオールインワン型ファンプラットフォーム『Bitfan』が送る、“アーティスト活動”にフォーカスしたインタビュー企画。アーティスト選曲のプレイリストと共に、これまでの道のりやファンとの関係について掘り下げます。今回はEmeraldが登場。
(本記事は、DIGLE MAGAZINEに掲載された記事の転載です。)
Emeraldがファンコミュニティサイト、『喫茶えめらるど』を開設した。中野陽介(Vo)は昨年の取材で、「お客さんと触れ合うのは今からでも遅くない」と語っていたのを思い出す。今回のサイト設立の動機も、そうしたファンへの心境から生まれたものだろう。メンバー自身が言うように、どちらかと言えば内向き活動ーー6人の関係性の中で実直に自身らの音楽を研磨してきた印象のある彼らだが、ここ数年は少しずつその眼差しを外に向け始めているのだろう。
サイトを覗くと、煌びやかな内装とウェイターに扮する6人のメンバーが現れる。『喫茶えめらるど』という名前からもわかる通り、「喫茶店」をモチーフに展開されるコミュニティサイトである。それぞれが役割を持ち、近況を綴った週報や雑談、メンバーセレクトのプレイリストなど、様々なコンテンツを提供している。Emeraldのニュースをキャッチする場所であると同時に、彼らのホームに足を運んで一息つくような、そんな空間として継続されていくのではないだろうか。
昨年7月から4曲の配信シングルをリリースし、年明けにはバンド史上初のワンマンライブを行うなど、活動10周年を機にギアを上げてきているEmerald。今回のインタビューでは、中野陽介(Vo)、藤井智之(B)、磯野好孝(G)の3人を招き、「最近のフェイバリットソング」というテーマでプレイリストを作ってもらった。プレイリストの話から、『喫茶えめらるど』の開設理由、そして来るべき3作目のアルバムへのヴィジョンまで、Emeraldの近況をざっくばらんに語ってもらった。
■メンバーみんなで昔聴いてた音楽を聴き直す
ーー「最近のフェイバリットソング」というテーマでプレイリストを作っていただきました。オアシスのライヴ盤から1曲セレクトされてますね。
中野陽介:
僕は年に何回かOasisしか聴きたくない日があるんですけど(笑)。ウェンブリーのライブ盤がとにかく良くて、中でも「Who Feels Love?」は日本人には絶対出せないようなグルーヴがあって、時々無性に聴きたくなります。
ーー中野さんのセレクトは、他は国内のアーティストですね。
中野陽介:
mei eharaさんは気付いたらずっと聴いている感じです。アルバムは2枚ともタイムレスな作品ですが、「昼間から夜」は特に好きな曲で、凄く落ち着きますね。Dry EchoesはFKDと田中光のユニットなんですけど、この曲には僕が好きなラップの要素が詰まってます。フィーリングは唾奇に近いのかもしれないけど、もっとドープで、東京の感じがする。そこがめちゃめちゃ好きですね。
ーー抒情的な声と、「俺は生まれてこの方ワーキングクラス」というリリックもカッコいいですよね。
中野陽介:
街角の詩人だと思います。そして、そういうリリシストな部分がしっかりとありながら、話してみると普通の兄ちゃんなんです。僕はそういうバランス感覚が好きで、結構熱視線を送っています(笑)。一晩に二回ライブをやった日には、両方見に行くくらい好きだったりして、「なんか一緒にやりたいね」って話もしています。
ーーEmeraldと近しいところで言うと、Mimeも印象的です。
中野陽介:
Mimeは好きな曲がめちゃくちゃいっぱいあるんですけど、「You Are Beautiful」は比喩に富んだ歌詞が本当に良くて。人を内側から豊かにする歌詞だと思います。あと、やっぱりひかりちゃんの声がね、俺のツボなんですよ。歌が上手いし、高貴な感じがするというか。とにかく凛々しいです。
ーー磯野さんのセレクトでは、優河の「灯火」は今年話題になった素晴らしい楽曲ですね。
磯野好孝:
これは、ドラマっすね。
一同:
(笑)。
ーー『妻、小学生になる。』を見ていたと。
磯野好孝:
実は宇多田ヒカルの「BADモード」も、『最愛』で使われていた「君に夢中」を聴いたのをきっかけにしてアルバムを聴きました。今はレコメンドの精度が上がって、どんどん紐づけてくれる便利なツールが沢山ありますけど、自分の中に残るものって、もっと自然と入ってきたものなんですよね。その「自然なもの」の代表格が、僕にとっては街中の有線だったり、普段聞いているラジオや、テレビドラマだったりします。
ーーArthur Verocaiは、Emeraldのサウンドにも影響があるように感じます。
磯野好孝:
最近Emeraldの次の作品が、ちょっとずつ視野に入ってきたところなんです。で、作品としては新しいものなんだけど、ちょっと昔聴いていたような音をやろうとしているんですよね。というのも、結局自分の血となり肉となっているものじゃないと、消化して表現できないんじゃないかと思うんです。そこでメンバーみんなで昔聴いてた音楽を聴き直すということをやっていて、Arthur Verocaiはその中で浮かんできたものです。
ーーryo sugimotoの『fragments』は、今年〈Salvaged Tapes〉から出たものですね。
磯野好孝:
メンバーの中村がお休みをもらっているんですけど、最初にサポートで入ってくれたのがsugimotoくんなんです。で、その翌週ぐらいにこの新譜が出たんですけど、『fragments』は今年一番の作品です。
ーーどこが刺さりました?
磯野好孝:
全部の音を打ち込んだ後に、それをホールで流して、その音をマイクで収録したみたいなんですけど。それが異常なクリーンさなんです。スタジオ録音をすると服が擦れる音が入ったり、人間のノイズみたいなものが音源に乗ってる感じが多少はするんですけど、『fragments』にはそういうノイズ感がほぼない。にもかかわらず、空間を凄く感じる作品になっているんです。もちろんそうした背景を知らなくとも素晴らしいアルバムで、僕の中ではクラシックのグレン・グールドの作品を聴くのに近い感覚があります。
ーー藤井さんのセレクトは、1曲目がAmber Markの「Mixer」です。
藤井智之:
僕はネオソウルが好きでEmeraldをやっているところもあるんですけど、Amber Markはネオソウルの感じもありつつ、オールドスクールなR&Bに寄った雰囲気も持っていて。リズムが良くてアッパーなところもある。そういうところが好きです。
ーーSouth Penguinの「night walker」は、アルバム『R』が高い評価を受けましたね。
藤井智之:
OGRE YOU ASSHOLEの音楽性が一気に変わった瞬間の作品が凄く好きなんですけど(『homely』以降)、South Penguinの『R』にはそこと通ずるものを感じます。僕は元々フィッシュマンズが好きで、ダウナーな感じのテンポ80〜90くらいの重たいビートが鳴っている日本語の歌ものが好きなんですよね。「night walker」は上音が空間系で、グワーっと埋めてる感じがあったり、自分の趣味にピンポイントで刺さってくる感じがあります。
ーーbLAck pARtyの「Hotline」は、まどろむようなムードが気持ちいい曲ですね。
藤井智之:
今年聴いた中で、一番自分に刺さった曲でした。音数が少なくタイトな曲なので、楽曲の雰囲気は全然違うんですけど、上音の感じはChildish Gambinoの「Redbone」に似ているところが面白いんですよね。ドライな音色で結構チルい感じかと思ったらノったりしていて、衝撃を受けました。
ーー今年リリースされた『Black RadioIII』からも1曲入っています。
藤井智之:
Robert Glasperは自分自身が初心に帰れる感じがするというか、やっぱりこれを求めていたんだなって思わせてくれる音楽です。新作だと今回選んだ「Over(feat. Yebba)」が好きなんですけど、たとえば「Afro Blue(Feat. Erykah Badu)」や「Cherish The Day(feat. Lalah Hathaway)など、Robert Glasperが女性アーティストと一緒にやっている曲には、僕の好きなものが多いんですよね。
■お客さんとミュージシャンはいろんな心の繋がり方がある
ーーここからは先日公開されたファンコミュニティサイト、『喫茶えめらるど』についてお話を聞けたらと思います。まずは開設の経緯から伺えますか。
中野陽介:
僕たちは音楽をやることに集中するあまり、お客さんとちゃんと向き合ってこなかったかもしれない。そんな気持ちがある中で、2019年に行ったクラウドファンディングが、最初のお客さんとのタッチポイントになった気がするんですよね。
ーーなるほど。
中野陽介:
そして今年の1月には、活動10周年記念のワンマンライブをやったんですけど。開催の三日前に蔓延防止措置が発令されたので、お客さんは来れないんじゃないかとも思っていました。でも、当日は沢山の人が足を運んでくれて、Emeraldのためだけにこれだけの人が来てくれたってことがめちゃくちゃ嬉しかったんですよね。それでお客さんと繋がれる場所を作って、Emeraldのニュースや、僕達の音楽以外の要素も垣間見れるような場所を提供できたら、ファンにも喜んでもらえるのではないかと思いました。
ーー『喫茶えめらるど』というタイトル通り、サイトを開くとウェイター姿に身を包んだメンバーと、カフェのような風景が出てきますね。
中野陽介:
会費がちょうどワンコインというのもあって、喫茶店でほっとするぐらいの感じにできたらなって思いました。それで僕たちメンバーも、それぞれスタッフとしての役割を持つような感じで作りました。僕はボーカルってことで店長みたいな立場になっていて、磯野と藤井智之は厨房で食に関することを発信していきます。鍵盤の中村とマニュピレーターの藤井健司が音楽コーディネーターという感じで、店の選曲をするセレクターという立ち位置です。で、高木陽は小回りの効くイメージがあったので、ウェイターになってもらっています(笑)。Emeraldのカチッとしたイメージからは少し崩れるんですけど、そうやってちょっと身近に感じてもらえるようなコンテンツを上げていきたいです。
磯野好孝:
普段のスタジオのムードを伝えることで、「楽しそう」って思ってもらえたらいいですよね。肩肘張らずにスタートして、そのムードに皆さんを巻き込んでいきたいです。
ーー具体的にどんなコンテンツを想定していますか?
中野陽介:
僕はファンの方から写真を投稿してもらって、それに短い詞をつけてみたいです。あと、ウェイター高木は、活動報告的なことを動画で上げてくれるかもしれない。
ーー詞をつけるというのは凄くいいですね。
磯野好孝:
Emeraldは結成当初、ライブでMCをしてこなかったんですけど、その結果お客さんにも共演者にも話しかけられなくなったんですよね。2ndアルバムをリリースした頃から少しずつMCをするようになって、つい先日UNITでイベントをやった時、冒頭で僕が弦を切っちゃったんですけど、「うわ!弦切ったわ〜」って話をするだけで場が和んだりして。
藤井智之:
普段話してる感じで話すだけでも、親近感が湧いて笑ってくれるような場面は多いんですよね。まあ一時期それをやりすぎて、エゴサすると「MCウケるバンド」みたいな感じになってたりしたんですけど(笑)。ファンサイトの方で普段の生活みたいなものを出せたら、音楽にももっと触れやすくなるかもねって話はしました。
中野陽介:
あと、コミュニケーションを取ることで、僕らもわかっていなかった自分たちの魅力に気づくかもしれない。それが楽しみでもあります。
藤井智之:
それは本当にあるよね。
ーーいずれにせよ、6人の関係性やキャラクターが見れる場所になりそうですね。
中野陽介:
僕はバンドって音楽だと思っていないところがあるんですよ。このバンドにいるのが心地よかったり、楽しかったり、Emeraldってそういう関係性の中でやってきた芸術なんですよね。そういう関係性とかも含めて楽しむ場所、そうやって出来上がっていく関係性芸術だと思うので、そういうところを見せれたらいいなって思います。
磯野好孝:
そしてファンサイトで話している内容が、実際のライブなどに反映できたら、僕らもお客さんも楽しいだろうなって思います。たとえば僕が普段料理を作っているところを見せて、それをライブのフードで出すだとか、藤井がラーメンが好きという話をしているので、他のラーメン好きのミュージシャンと何かしてみたり、そうやって文脈回収していったらいいんじゃないかなと思います。お客さんとミュージシャンって、いろんな心の繋がり方があると思うので、遊んでいきたいですね。
■バンド全体の一体感や関係性が、Emeraldの神秘的な部分
ーー最後に音楽的なことや、活動面についても聞かせてください。まず、昨年半ばから4曲連続のシングルリリースを行い、今年の1月にワンマンライブを行ったことは大きなトピックでした。
磯野好孝:
一年間何の音沙汰もなかったところから、しっかり立て直して蔓延防止中でも大集結してもらった感じはありますね。
藤井智之:
10周年で何もしなかったらマジでヤバかったと思うので、無理やりにでもやらなきゃ!って感じで、去年動き始めたんですよね。頑張ってやってるぜってところを見せれたし、サブスクでのリスナー数も目に見えてベースが上がったので、一年半ぶりくらいに動きを見せれたのはよかったです。
磯野好孝:
初めてのワンマンライブだったので、その場に純度100%のファンがいるっていうのも嬉しいことですし、俺らも良い演奏を届けられたという手ごたえがありました。
ーー中野さんは歌ってみてどうでした?
中野陽介:
ひたすら集中してました。歌詞も間違えなかったし(笑)。やってきた曲は身体が覚えてて、この感じいいなって思いながら歌っていましたね。あと、あのライブで『TEN』という12inchを作ったんですけど、その中にセルフライナーを入れているんです。そこにバンドのヒストリーを年表のように箇条書きで書いてみたんですけど、「こんだけやってきたんだなあ」って、自分で見た時にずっしりと感じるものがありました。
藤井智之:
あと、ワンマンライブをやったことで、バンドであることの意味を考えさせられました。普段ユニットや個人でやっている人から見たら、バンド全体の一体感や6人の関係性が、Emeraldの神秘的な部分に繋がっているって言われて。そうやって自分達の音楽を再認識したとことはありますね。
ーーArthur Verocaiの話の中で、「次の作品がちょっとずつ視野に入ってきた」と言われていました。もう次作への制作もスタートしているんですか?
磯野好孝:
そうですね。ついこの間、メンバー内でキックオフ的な感じがありました。僕らの作品って、今まではできた曲を元に藤井智之がストーリー付けして曲順を作っていく、という流れでやっていたんですけど。今度はそれを逆にやってみるのはどうかって話になったんですよね。つまり、作品を通したストーリーを先に描いて、そこにどういう楽曲があったら楽しいのかを考えていく、という順番で作ってみようという話をしました。
ーーなるほど。
磯野好孝:
なので先にテーマや全体の流れを設計してみようってことで、メンバー全員でアイデアを持ち寄り話し合ったんです。結果、方向性に統一感があってびっくりしました。ファーストアルバム(『Nostalgical Parade』)を出した頃を思わせる原点回帰的なもの、自分たちの血となり肉となっているものから、今の時代にはまるものを作り出していこうっていうモードになっています。
藤井智之:
あの頃はブラックミュージックに興味を持ってやっていたけど、自分たちの技術や理解度の問題で、できなかったところがあったんですよね。それも今やったらもうちょっと上手くいくかも、という期待も個人的にはあります。
磯野好孝:
もうひとつ今後の展望を言うと、今年か来年辺りにコラボ曲を積極的にやりたいと考えています。シングル連続リリースと、10周年記念のライブでぶち上げた結果、色んな人が「Emeraldと一緒にやりたい!」って声をかけてくれてたんです。
ーー中野さんは次作に関して、どんなイメージを持っていますか?
中野陽介:
僕はバンド感みたいなところにテーマを置いたものを作りたいと思います。
ーーそれはグルーヴを感じるもの、ということですか?
中野陽介:
そう。アンサンブルとグルーヴ。そして、その奥にある人間っぽさって言うんですかね。人が集まってものを作っているからこそ生まれる揺らぎや重なり、連なりみたいなものを感じるような作品にしたいです。そして、3作目のアルバムって非常に重要な作品だと思うので、記念碑的なアルバムにしたいとは思っています。
磯野好孝:
最後にファンコミュニティと絡めたところで言うと、喫茶店のアルバイトが書く日報みたいな感じで、バンドの活動週報を公開できたらと思います。そこで制作における別側面が見えるかもしれないし、もしかしたらスタジオで食べた飯の話をしているだけかもしれないけど(笑)。僕らのムードが見えるようにしたいですね。