【前編】大比良瑞希が考える、音楽の本質と自身の居場所|DIGLE MAGAZINE
▶︎ 自然体な音楽が好き
▶︎ “とにかく”前に進んできた4年間
DIGLE MAGAZINEとオールインワン型ファンメディア『Bitfan』が送る、“アーティスト活動”にフォーカスしたインタビュー企画。アーティスト選曲のプレイリストと共に、これまでの道のりやファンとの関係について掘り下げます。
(本記事は、DIGLE MAGAZINEに掲載された記事の転載です。)
今回はシンガーソングライター・大比良瑞希が登場。前編をお届けします。
昨年、4年ぶりとなるフルアルバム『IN ANY WAY』をリリースした大比良瑞希。蔦谷好位置率いるプロジェクト・KERENMIや、七尾旅人、tofubeatsといったミュージシャンたちが参加した本作は、様々な他者と関わり、多様なグルーヴにその身を任せることで、より大比良瑞希という「個」の魅力を堪能できるアルバムだった。
そんな彼女は、現在、ファンコミュニティ「MIZU MIZU CLUB」を運営しており、そこを通して、精力的にファンとのコミュニケーションを培っている。今回、彼女には「自分のファンに届けたい音楽」というお題でプレイリストを作成してもらい、そのプレイリストの話も交えながら、大比良のファンとの向き合い方や、『IN ANY WAY』以降の音楽家としての心境などを語ってもらった。音楽を通して人と人が繫がり合うこと――そんな理想を追い求めながら、自身の居場所としての音楽を作り続ける大比良の本質的な言葉がたくさん聞けた取材だった。
■ 自然体な音楽が好き
-今回、作っていただいたプレイリストの並びを見ると、大比良さんが今、音楽で表現されていることと密接に結び付いていそうな音楽が並んでいますね。
曲順も結構こだわって作りました。1曲目Clairoの「Bubble Gum」のビートがない、ゆったりとした感じではじまって、2曲目Erykah Baduの「Green Eyes」はレコードの針を落とす音から始まるんですけど、そこから段々と、生活の中に音楽が馴染んでいくような感覚を味わってもらえればいいなと思って。自然体で音楽に寄り添っていくうちに、いつの間にか音楽によって楽しい時間が生まれているような……そういう時間を生み出せたらなと思って作ったプレイリストです。
-「生活の中に音楽が馴染む」というのは、大比良さんが音楽と接するうえで大切にされている感覚なんですか?
そうですね。音楽ってもちろん非日常にもなり得るけど、日常にありながら、その日常をちょっとずつ彩ってくれるものでもあると思うんですよね。なので私は毎日、音楽があってほしいなと思うし、音楽がある日常をもっともっと広めていけたらいいなと思うし。
-今回のプレイリストに選ばれた人の中には、女性のソロアーティストが多いですよね。そういうところでも、大比良さんご自身の表現との共振を感じさせるというか。様々な文化や価値観が交錯した場所から、あくまでも「自分のことは自分で語らなければいけない」と認識している人たちの音楽が並んでいるな、という感じがします。
それはすごくあるかもしれません。今回選んだ人たちは、どんな状況であっても、自分が自分であることを受け入れて、自分のことを好きになって、自由にやっていくぞっていう人たちなのかなって思いますね。私は、自然体な音楽が好きなんだと思います。
-自然体というのは、「正直さ」のようなものですかね?
そうですね、いうなれば、コンプかけすぎていない、みたいな(笑)。その人の持つ「ありのまま」がそこに生き生きしているか、みたいな感覚ですかね。例えばFeistの歌い方って、声の全てが伝わってくるような感じがするんです。私は、補正され過ぎている音楽じゃなくて、ある程度「そのまま」であることをよしとしている音楽が好きなんだと思います。もちろん、このプレイリストの曲が、レコーディングの過程でどれだけ録り直しをしているかはわからないですけど、前に青葉市子さんのインタビューを読んだときに、「一発目の歌が一番いい」と言っていて、ハッとしたことがあって。歌って、録り直しを重ねる毎に原型から変わっていってしまうものなんですよね。私は、原型が残っていそうな音楽が好きだなって思います。その音楽が生まれた瞬間の魂が残っている音楽に、自然と惹かれているのかもしれない。
■ “とにかく”前に進んできた4年間
-大比良さんは、ソロ名義であることにこだわりはありますか?
私は24歳くらいまでやっていたバンドが解散して、それをきっかけにソロで活動を始めたんですけど、最初は本当に、「たまたまソロになっちゃった」っていう感じだったんですよね(笑)。それでも今考えてみれば、ソロであることはすごく自由ではあるなと思います。いろんな人と一緒に音楽を作ることができるし、それに、そのときの自分をありのままに出せる。そういうところは、良くも悪くも面白いです。
ー「悪くも」という側面もありますか?
言ってしまえば、自分を切り売りするようなところがあるというか…。音楽と自分の人生が一緒くたになって進んでいってしまう感覚があって、誰かのための音楽にしたいのに、自分をそこに投影し過ぎてしまうような気がするんですよね。
-作品は、そのときそのときの自分の人生と、強く結びついている?
そうですね。歌詞の世界はフィクションもノンフィクションもあるんですけど、自分の本名でやっていることもあってか、自分から離れられない感じはあります。
-去年リリースされたアルバム『IN ANY WAY』は様々な方とのコラボレーションによって生まれたアルバムでしたが、あのアルバムを改めて振り返ったとき、そこにはどんな自分自身がいたと思いますか?
「IN ANY WAY」って、「とにかく」っていう意味なんです。あのアルバムは4年間かけて作ったんですけど、「とにかく前に進もう」「とにかく、やってみなくちゃわからない」っていう感覚で進んできた4年間だったし、「どんなことがあっても、それをポジティブに捉えよう」って、無理やり言い聞かせるような感覚で「IN ANY WAY」っていうタイトルを付けたんです。
でも、あのアルバムを出してから、今はちょっとモードが変わってきたんですよね。無理やり強い言葉を言い聞かせることももちろん大切だけど、ポジティブなときがあればネガティブなときだってある……そうやって波があるのが人間じゃないですか。最近はその波のなかで、もっと自分のネガティブな部分に焦点を当ててみたくなってきているような気がしますね。
-『IN ANY WAY』の力強さの裏側にあるものも、無視できなくなってきたんですね。
今って、インスタグラムとかでも、楽しんでいるところばっかり写真に撮って上げるじゃないですか。それって、どこか無理やり自己肯定をしているような感覚もあると思うんですよ。でも、音楽を聴いているときにまで、自分のことを誤魔化す必要はないんじゃないかと思うんですよね。本当に寄り添ってくれるような、今の自分にとって何が一番大事で、「自分が何者なのか?」ということに気づけるような音楽を作ることができればいいなっていうのが、今の自分の気持ちとしてはあります。……すいません、今、次のEPを作っているので、それに向けての話をしちゃっているんですけど。
ーいえいえ。
でも、『IN ANY WAY』は昨年6月3日にリリースされたんですけど、空前のコロナ真っ只中の時期に出したアルバムとして、このタイミングで前向きなメッセージを発信できたことはよかったなと思います。
(『DIGLE MAGAZINE』編集部 文: 天野史彬/写:木村篤史/編:久野麻衣)